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後ろ傷

東 直己 / 後ろ傷

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ススキノ・ハーフボイルド』の続編にあたる、東直己のミステリー小説を読んでみました。これまた電子書籍が発売されていないので、図書館で…。やはり旧作は大ヒット作かメジャーなシリーズもの以外はなかなか電子化の手をつけてもらえないのが残念なところ。

時間軸は道警腐敗事件の翌年。『駆けてきた少女』『ススキノ・ハーフボイルド』に続いて 3 作目の登場となる松井省吾君は、本作では大学生になっています。が…、以前の作品では「北大合格確実」という話だったのが、どういうわけか受験に失敗してしまい、唯一滑り止めとして受けていた道央学院国際グローバル大学(通称:グロ大)に進学します。まあ、受験に最も重要な高三の夏休みにああいう事件に首を突っ込んでいてはそれもむべなるかな、という気はします。しかもグロ大は『駆けてきた少女』に登場するある事件の犯人であり被害者が通っていた、札付きの底辺大学。恋人だったホステスの麻亜とも別れています。もともと自信家で世の中を斜めに見ていた松井少年は、このことで完全にひねくれてしまい、物語の中盤までは自虐的な台詞やグダグダした行動が目につきます。中盤までに幾度となく登場する「グロダッチ(=グローバル大学の友達)」という言葉も、妙に哀愁を誘う響きで何とも言えません(笑。
個人的には、こういう生活環境が大きく変わる十代後半~二十代前半に自分の価値観を覆すような事件が起きるとしばらく自棄になって立ち直れなくなる心境は分からなくもないです。大人になった今では、逆にそうやって時間を浪費している若者の姿がもどかしくもあります。

そういう意味では、世間知らずで腕っぷしも弱いくせに正義感だけは強い松井少年の「ハーフボイルド」っぷりに、さらに磨きがかかった作品と言えるでしょう。


ただ、松井少年が『ススキノ・ハーフボイルド』と違うのは、今回は事件の渦中にいる、ということ。前作では完全に巻き込まれ、振り回される形で事件が進んでいき、結局最後まで事件の中心に立つことがありませんでしたが、今回はもろに事件の中心人物になります。この事件を通じて松井少年が自分の価値観を再認識し、進むべき道を取り戻していくのがこの物語のハイライトではないでしょうか。
ただ、事件の解決にはあの「俺」が「便利屋さん」という立場で深く絡み、なんだかんだで事件を解決したのは「俺」の立ち回りによるものだったりします。その点では結局この作品も「ススキノ探偵シリーズ」を視点を変えて描いたもの、ということになります。

この事件のあと、松井少年はどういう人生を歩んだのでしょうか。続編は書かれていないので想像するしかありませんが、結局グロ大をやめて浪人し、北大に進んだのではないかと思います。もしかすると、加齢で動きの重くなった「俺」の後を継いでススキノの便利屋稼業を始めているのかもしれません。

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