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BenQ HT3050 レビュー (4):製作者の意図を正確に再現する Rec.709 対応

少し間が空いてしまいましたが BenQ HT3050 のレビューを続けていきます。今回のお話がこのプロジェクタについて最も重要なパート、と言えるのではないでしょうか。色再現に関するお話です。

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BenQ / ホームシアタープロジェクター HT3050

BenQ HT3050

まず、このプロジェクタについて改めて説明すると、「Rec.709」という色域(表現できる色の範囲)に対応したプロジェクタです。

「Rec.709」は正式には「ITU-R Recommendation BT.709」と呼ばれ、国際電気通信連合(ITU)が定めた国際標準という意味合いです。メーカーや文献によっては「BT.709」と表記されることもあります。
この Rec.709 は HTDV(ハイビジョンテレビ)向けの色域で、比較的よく知られている色域である「sRGB」とイコールである、と理解して差し支えありません。sRGB は PC やデジタルカメラが表現できる色域としてよく出てくる規格なので、Rec.709 はごくベーシックな色域に対応した規格、と言えるでしょう。

このあたりは文章よりも色度図等で確認した方が理解が早いと思います。以下の ITmedia や Phile-web の記事がとても解りやすいと思うので、ぜひご一読を。

ITmedia流液晶ディスプレイ講座II 第1回:大事なのは”正しい色”を表示できること――液晶ディスプレイの「色域」を理解しよう (1/3) – ITmedia PC USER
【海上忍のAV注目キーワード辞典】色域と「TRILUMINOS」 - NTSC/sRGB/BT.709…何が違う? – Phile-web

というわけで、Rec.709 という規格自体は以前から存在していました。また今後本格化する 4K/8K 時代向けにはさらに拡張された「Rec.2020」という規格が登場しており、対応機器も既にプロ機を皮切りにに登場しつつあります。また、数年前に出てきた(けどさっぱり流行らなかった)「x.v.Color(xvYCC)」という規格では、Rec.709 よりも遙かに広い色域に対応していました。なので最初にこのプロジェクタの存在を知ったときには「今さら Rec.709?」と思ったのは事実です。
しかし、この Rec.709 対応を謳う HT3050 のキモは「広い色域を表現できること」ではなく、「正しい色再現ができること」。実際には、Rec.709 よりも広い色域に対応したテレビやディスプレイは数多く存在しますが、テレビ放送や DVD/BD にはその広い色域で映像が記録されていないため、そういった機器では多くの場合(機器の出荷時設定では)製作者が本来意図した色合いよりも強調された状態で映像が表示されているわけです。それはそれで分かりやすい画質で良い、という人も多いでしょうが、プロジェクタを導入するほどの映画ファン、AV 機器好きであれば製作者の意図した表現を自分の環境で再現してみたいと思うもの。
この HT3050 はその要望に応えるため、プロジェクタの出荷段階で個体ごとに色調整を行い、Rec.709 に基づいて作られた映像の色合いを正確に再現する、とされています。Rec.709 の色域に対応したことそのものよりも、この調整作業が HT3050 の価値である、と言って良いかもしれません。

では実際の映像はどうなっているのか。私は映像の製作者ではないので HT3050 を通した映像が製作者の意図どおりかを判断できるわけではありませんが(笑)、他の設定と見比べつつ、チェックしてみましょう。


BenQ HT3050

まず HT3050 が出してくる素の色はこんな感じ。User モードのデフォルト設定が、画作りのベースにすべき状態と解釈して良いかと思います。この状態は色温度:標準、ガンマ:2.2。DLP という十分にこなれたデバイスを搭載しているおかげか、パッと見ではこれでも十分に「見れる」画質と言えます。

BenQ HT3050

色温度「ランプネイティブ」という設定があったので試してみたところ、かなり青みがかった印象で、ちょっと見るに堪えません。HT3050 に搭載されている水銀ランプの色味に引っ張られてしまっています。通常のモードでは、このランプの地色にパネル側で赤みを足して表示しているということでしょう。

BenQ HT3050

色温度を「高い」に設定してみました。ランプネイティブに比べれば全然マシになりましたが、まだちょっと青く、赤系の色がくすんで見えます。透明感のある映像や CG ベースの作品ならばこっちのほうが合いそうですが、実写作品で人肌の表現を見ようとすると厳しい感じ。

BenQ HT3050

色温度「標準」、つまり最初の状態に戻してきました。写真では色温度高設定と大きく違って見えませんが、肉眼だと赤み・黄色みが増して見えています。

BenQ HT3050

色温度「低い」にすると、赤や茶系の色がグッと深みを増してきます。逆に白いはずの雲に少し黄色が乗っかってきていたり、青空の色がくすんできたりしていますが、普段からテレビの画質設定を色温度低で見ている私としては、むしろこれくらいの色が好み。人物の肌色も健康的に見えます。

BenQ HT3050

画質モードを「Cinema」にしてみました。

一般的なテレビやプロジェクタのシネマモードというと、色温度を下げ、輝度やコントラストも抑えめにして色の階調表現を重視したモードという位置づけであることが多いです。が、HT3050 の Cinema モードは「Rec.709 の色再現を正確に表示するモード」ということのようです。まあ、多くの映画が暗室での上映を前提に色味やダイナミックレンジを作り込んでいるので、それを再現するという意味では一般的なシネマモードの画質と HT3050 の Rec.709 モードでは、同様の結果を違うアプローチで追求している、と言って良いでしょう。

実際に製作したスタジオでマスターモニタを使って見たことがあるわけではないので何とも言えませんが、ほほう、これが製作者の意図した画質なのか、という感想。確かにしっくりくる画質ではあります。プラシーボである可能性も否定できませんが(ぉ。
ただ色彩に関しては思っていたのより少し淡いかな、とも感じます。

BenQ HT3050

そこで Cinema モードのままでガンマを 2.4(デフォルト値は 2.2)に変更してみました。Cinema モードでは色温度は固定されていますが、輝度やガンマは調整することができます。ただし別のモードに切り替えた後に Cinema モードに戻ってくるとガンマはデフォルトに戻ってしまうようなので、基本的にガンマ 2.2 で見るべしということなのだと思います。

製作者の意図とは違うかもしれませんが、個人的にはこれくらい中間調が落ち着いているほうが好み。
でもこれはもしかすると HT3050 のスペック(60~300inch 対応)に対して小さめの 80inch スクリーンに投写しているせいで、ランプの輝度が高すぎて中間調が浮いているのかもしれません。ガンマよりも輝度を少し落としてやることで本来の意図に近づけることができるのかもしれませんが、よく伸びているハイライト側のトーンも活かしたかったので、この状態をメインに使ってやることにします。

BenQ HT3050

ちなみにガンマカーブに関しては、数値指定のほかに「BenQ」という設定値も用意されています。これに設定してみると、高めのガンマ値に近い濃いめの色合いが出てきますが、ややのっぺりしてしまう印象も。
HT3050 の Web サイトや取説を見ても、この BenQ ガンマの詳細が書かれていないので、これがどういう状態なのか分からないんですよね。もっともこれに限らず、BenQ 製品はいかにも海外メーカーのローカライズ品という感じで情報が少ない。正直なところ、あの Web カタログの情報では Rec.709 に関して正しく理解することは難しいのでは、と思います。

BenQ HT3050

別のソースでも見てみましょう。

こちらが Cinema モードデフォルトの状態。悪くはないですが、やっぱり少し白っちゃけているような印象があります。

BenQ HT3050

これもガンマを 2.4 にしてやると、中間調の色乗りが良くなって、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の濃厚な絵の雰囲気が出てきます。

Cinema モードのデフォルト設定とは違っていますが、取説(付属品ではなく英語版の PDF を参照しています)にはガンマ 2.4 は「Best for viewing movies in a dark environment」と記載もあるので、暗室で見る分にはこれくらいがちょうど良いということなのでしょう。

BenQ HT3050

ここまでのテストは色の変化が分かりやすいアニメ映像を使ってきましたが、Rec.709 による正確な色再現という点ではむしろ実写作品のほうがその恩恵を受けるように思います。ほとんどの映画が製作過程でカラーグレーディング(色合いやコントラストだけでなく映像の質感まで作り込んでいる)のプロセスを経ているため、その意図的に変更された色を正しい状態で見ることは、その作品を深く味わう上ではとても重要。

BenQ HT3050

これは『ラッシュ/プライドと友情』のひとコマですが、この作品なんかは 1970 年代の映像の雰囲気を出すために非常に手の込んだカラーグレーディングが施されています。液晶テレビでの再生でもその質感を味わうことはできましたが、この古いフィルムっぽさは、正しい色再現のできるプロジェクタで投写してこそ真の実力を発揮すると言えます。

BenQ HT3050

実際の映画館でも、おそらくは単にプロジェクタやスクリーンなどの機材を設置するだけでなく、輝度や色合いを正しく再現するようなセットアップが行われているはず。この HT3050 は、そこまで手をかけなくても誰もが自宅で正しい色再現を手に入れられるプロジェクタです。しかし、液晶などの直視型ディスプレイに比べると、プロジェクタは環境光やスクリーンの素材によって色再現性が変わってくるものですし、ランプやパネル(のカラーフィルタ)の経年劣化によっても状態は変わってくるはず。メーカーから「こういう環境を前提に画質調整を行った」というリファレンスが示されておらず、キャリブレーションを行う手段もない(と思われる)部分には手落ち感があります。
とはいえそういうのはハイエンドプロジェクタの役割であり、15 万円前後で買えるエントリー寄りのプロジェクタとしては、買うだけで(特に設定しなくても)一定水準の画質が保証されていることには意義があるとも思います。ハイエンドモデルは買えないけど画質にはこだわりたい人には、HT3050 はちょうど良い選択肢と言えるのではないでしょうか。

BenQ / ホームシアタープロジェクター HT3050

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■関連リンク
BenQ HT3050 レビュー (1):Rec.709 に対応したフル HD プロジェクタ
BenQ HT3050 レビュー (2):設置・設定について
BenQ HT3050 レビュー (3):画質について

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