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小説『READY PLAYER ONE』

映画『レディ・プレイヤー 1』を観て以降、通勤時間等を使ってコツコツ読み進めていた原作小説を読了しました。

アーネスト・クライン / ゲームウォーズ(上)
アーネスト・クライン / ゲームウォーズ(下)

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映画版はエンタテインメント作品としてはとても面白かったんだけど、どうにも「はしょってる感」は拭えなくて。これだけマニアックな作品なら原作を読めばもっと掘り下げられるはず…と思い、サクッと電子書籍を購入して読みました。邦題は『ゲームウォーズ』というパッとしないものがついていますが、映画公開後は原題のほうを前面に出しているようですね。

食糧やエネルギー問題が深刻化して格差が拡大し荒廃しつつある「リアル」から逃避できる仮想世界「オアシス」と、その創始者であるジェームズ・ハリデーが残した莫大な遺産および「オアシス」の運営権を賭けて世界中のプレイヤー達が謎解きに挑む…というストーリーは映画と共通。だけど、小説と映画では細かい部分の進み方が全く異なる別の作品でした。謎解きは基本的にクラシックゲームにまつわるものが多く、「デロリアンと金田のバイクでレースする」みたいなのはあくまで映画のアイキャッチとして用意されたもの。でも原作をそのまま映像化したらマニアックすぎて間口が狭すぎるだろうし、2018 年時点で VR の世界観を分かりやすく見せ、2045 年として来そうな未来を提示するにはあれが必要だったんでしょう。


映画における「オアシス」は「中でゲームもできる、何でもできる仮想空間」という見せ方でしたが、小説では「VR ベースの MMORPG 的世界から発展し、何でもできるようになった仮想空間」として描かれています。そのためエリアによって PvP(プレイヤー対戦)の可否があったり、キャラクターごとにインベントリー(持ち物リスト)や視界の中にサブウィンドウを表示させたまま移動できたり、システムの設定がゲーム寄り。MMORPG は最終的にはストーリーを攻略することではなく仲間とのコミュニケーションが目的化することも少なくないですが、その延長線上にこの世界があることが分かります。
私は年齢的には本作のどストライク世代よりも五歳くらい下なので、本作で語られる 1980 年代のゲームや映画、アニメネタは半分も分からないのですが、今の技術の延長線の上に描かれた VR の世界観にはすごく納得感があります。

私は大学生だった 1997~8 年頃にごく初期の 3D チャットサービス「Worlds Chat/J」および「メタプラザ」(どちらも凸版印刷系のベンチャーが日本版を手がけていた)で初めて仮想空間上で見ず知らずの誰かとコミュニケーションをしたことがその後の人生に大きな影響を与えたし、2002~4 年頃に FFXI の世界にどっぷりと浸かっていましたが、「オアシス」はまさにそれらを VR 化して生活の一部にしてしまったようなもので、かつて自分が妄想していた未来像(ディストピアでもあるけれど)がここにある感覚。IT や通信に基づく多くの技術はコミュニケーションの効率化や多様化をもたらすし、VR も紛れもなくその重要な 1 ピースなんだよなあ。

映画版で最大の違和感だった終盤のメッセージ「リアルにこそ、仮想世界で得られない大切なものがある(うろ覚え)」にはどうにも取って付けた感というか、「ゲームは一日一時間」のような定型文感というか、がありました。この小説でもラストには同じようなメッセージが込められているんですが、そこに至る過程が全然違う。映画ではクライマックス前にパーシヴァル(の中の人)とアルテミスやエイチ(の中の人)がリアルであっさり合流していましたが、小説版では本当に最後の最後に至るまでリアルでは会わず、必要に迫られて集結します。「ネットの向こう側にいる相手と普段のコミュニケーションを通じて信頼関係を築けていれば、相手の素性が何だって構わないし積極的にリアルで会いたいとも思わない」というのは長年ネットでのコミュニケーションを重ねてきた私の実感なんですが、登場人物たちが自然とこういう考えで動けている分だけ、小説版のほうにリアリティを感じました。
まあ、ネットでしか接したことがない人とリアルで会うと楽しいことが多いのは事実だし、ネット上ではできない話に価値があったりすることもまた事実なのですが。でも必ずしもネットが虚構でリアルが真実というわけではないし、自分の外見や肩書きに縛られないコミュニケーションにこそその人の本質が宿っている、ということはあると思うのです。おそらくそれが解っているパーシヴァルであれば、リア充(笑)になった後であってもハリデーから運営を受け継いだオアシスを停止させるという判断はしないに違いない。

さておき、「ちょっと先に、実際に来るかもしれない未来」を描いた小説としてはなかなか面白かったです。映像のイメージがあるほうが脳内補完がしやすい話でもあると思うので、映画を先に観てから小説を読むとグッと深みが増すのではないでしょうか。

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