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2016/11/15 (Tue.)

ポケモン GO は終わらない

みなさんポケモン GO はまだ続けてますか?私は時々「まだやってんの?」と言われながらも、地道に続けています。今日の時点でトレーナーレベル 26、日本で収集可能な 142 のポケモンのうち集めた数は 138。けっこうがんばってるでしょ(笑。

西田 宗千佳 / ポケモン GO は終わらない 本当の進化はこれから始まる

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そんなポケモン GO をテーマにした西田宗千佳氏の新著が発売されたので、私も早速読了しました。マスコミを巻き込んだ、国内サービス開始時の熱狂は過ぎ去り、ブームはもう落ち着いたように思われます。が、街中では今でもそれなりの割合でポケモン GO の画面が表示されたスマホを持っている人を見かけ、お台場にはまだまだレアポケモンを求める人々が集まっています。ポケモン GO が誕生した経緯とブームの正体、そしてポケモン GO が与えた世の中への影響を一度総括するという意味では、いいタイミングなのではないでしょうか。

位置情報ゲームも、キャラ収集ゲームも、ネット対戦系の携帯/スマホゲームもそれぞれは以前から存在したものでした。それがこれだけ世界的に、しかも垂直立ち上げ的に広まったのは、ひとえに『ポケモン』という IP の強さと『Ingress』をベースとした位置情報の網羅性にあります。中でも「身の回りに存在するポケモンを捕まえる」という行為は本来の『ポケモン』が持っていた要素そのもの。今まではゲーム機の中のフィクションの世界で表現していたものを位置情報や AR を使って拡張現実の中に作り上げたことがポケモン GO の強さの秘密であり、他の IP で同じことをやってもここまでのヒットには繋がらなかったと言えます。本書ではさらに、携帯ゲーム機版のポケモンでも「思い出のポケモンは『公園で交換したポケモン』であり、『校庭で手に入れたポケモン』だった。人の記憶は、画面の中にだけあるのではない」と指摘しています。私はゲーム機版のポケモンをプレイしたことがないのでその視点がありませんでしたが、であればなおのことスマホの位置情報ゲームと相性が良かった、ということが言えるでしょう。

まあ、サブタイトルに「本当の進化はこれから始まる」とつけられたタイミングでようやく基本的な DAU(デイリーアクティブユーザー)施策が初めて導入されたり、まさに現在行われている東北復興イベントで超レアポケモンのラプラスがフィーバー状態で、これまでに苦労してゲットしたユーザーのモチベーションを殺ぐ結果を招いていたり、正直言って運営面は素人なんじゃないかと感じてしまう場面も少なくありません。が、言い換えればこれまでは運営の拙さが問題にならないほどのブームを起こせていたということであり、そのためのインフラ増強などに運営側の工数が割かれていた結果だということでもあります。

本書は Google の一部門に過ぎなかった Niantic(ポケモン GO の開発・運営元)がいかにしてポケモン GO を生み出し、世の中に大きな影響を与えたかという話にとどまらず、スマホアプリとしては他のゲーム等とは異なる特異な普及・使用・収益状況にあること、ドラマやアニメの聖地巡礼ブームとも絡めた「コンテンツ・ツーリズム」の話、さらにはこれから立ち上がってくる AR/VR との関係性、と多岐にわたる分析がなされています。ゲームライターではなく「電気かデータが流れるもの全般」を取材対象とする西田氏ならではの観点で、単なるポケモン GO の現状解説ではなく 2016 年時点での技術トレンドや社会動向を押さえるという点でも一読の価値があると言って良いでしょう。

個人的に興味深かったのはコンテンツ・ツーリズムの話。近年のアニメでは舞台となった土地の聖地化の成功例・失敗例には枚挙に暇がありません。その本質を突いているのが、まつもとあつし氏によるこのインタビュー記事ではないかと思います。

ASCII.jp:ガルパン杉山P「アニメにはまちおこしの力なんてない」 (1/6)|まつもとあつしの「メディア維新を行く」

コンテンツ自体の面白さと「聖地」になる地方の魅力、それに地元の人々の理解が全て揃わないと成功例とはなりにくく、再現性を求めることが難しいのが実際ではないでしょうか。ポケモン GO における初の公式コンテンツ・ツーリズムである東北イベントは先述のとおり必ずしもポジティブな要素ばかりではないのも事実ですが、少なくとも東北に人を呼び込むことには成功しているようです。また、今回のイベントとは直接関係ありませんが、震災で失われた東北のランドマークを「記憶のポケストップ」として拡張現実空間上に再現されていて、私も先日の東北聖地巡礼のついでにそのいくつかを実際に目にしました。本書を読む前に、たまたま別のコンテンツ・ツーリズムに乗っかった際に遭遇したというのも何かの縁でしょうが、震災から復興するにあたり「以前とは別の風景」が作られていく一方で、失われたものを追体験できる、というのは貴重であり、同時にとても重い体験でした。これは何もポケモン GO に限らず、他のアプリやソリューションにも今後波及していく可能性があり、そういう意味では「実質的にポケモン GO が世の中に与えた影響のひとつ」となることでしょう。

ポケモン GO 自体、現時点で実装されているコンテンツはゲームボーイ版の初代ポケモンの内容に過ぎず、これから新ポケモンや新機能の追加、あるいは運営の改善などを経てまだまだ進化する余地を残していると言えます。しかし、それよりも重要なことは、ポケモン GO が一般的なスマホゲームのヒット作とは(量的にも質的にも)異なる形で浸透し、一気にキャズムを超えたことで、今までは一般化してこなかった技術やその使われ方が世の中に定着する可能性を示したということだと思います。「ポケモン GO で交通事故」みたいなネガティブな事件も含めて(それはスマホ自体の使い方の問題であって「どのアプリだったか」は本質ではないと思うけど)、数年後に振り返ったときに「ポケモン GO がひとつの転換点だった」と言われるようになっているのではないでしょうか。
ある技術や概念が世の中に浸透していく瞬間に立ち会えるというのは稀有な経験です。私もここまで規模は大きくなくてもいいから、そういうことを起こせる当事者の一人になれるよう頑張らなくては、という思いを強くしました。

投稿者 B : 22:50 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2016/10/18 (Tue.)

はじめての社内起業 「考え方・動き方・通し方」実践ノウハウ

先日読んだ『ソニー復興の劇薬 SAP プロジェクトの苦闘』からの流れで...というわけでもないのですが、新規事業立ち上げ系のビジネス書を一冊読んでみました。リクルートで情報サイト「All About」等の新規事業立ち上げを多数手がけた石川明氏の著書です。

石川 明 / はじめての社内起業 「考え方・動き方・通し方」実践ノウハウ

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ここ数年、日本でもハードウェア・スタートアップなどのベンチャー企業が注目を集めています。クラウドファンディングにより以前よりも資金調達と露出の場を兼ねられるようになったことが大きな要因だと思いますが、その場を提供しているのがサイバーエージェントや Yahoo!、DMM といった影響力のあるネット企業であることも無視できません。
しかし一方で、国内の経済状況が以前よりも好転したためか、ベンチャーの起業と同じかそれ以上に、企業内での新規事業検討が行われているのも事実だと思います。ソニーの SAP なんかはその代表的な例だと言えるでしょう(SAP はソニーグループ内の R&D や製造の協力が得やすかったり、新規事業起案者向けのトレーニングを行うなどのバックアップを組織として行っているのが、他社の状況とは大きく違うとは思いますが...)。この本は、そんな「企業内で新規事業の立ち上げを任された担当者」向けの一冊だと思います。

この書籍に書かれているのは、大きく分けて以下の要素です。

  • 新規事業の担当者になったときのものの考え方
  • 新しく踏み出す事業領域の選び方
  • その領域での差異化の考え方
  • 事業プランや事業計画書の作り方
  • 社内での事業計画の通し方
新規事業の担当者に抜擢されてから実際に事業計画の承認を得るまでのプロセスに関してやるべきことを丁寧に解説してくれています。
ベンチャーであれば「これを実現したい」という明確な目的があって起業することがほとんどだと思いますが(その後の経営状況や環境の変化によってピボットする例も多いにせよ)、企業内での新規事業立ち上げはいち社員が「新規事業を立ち上げろ。目標は●年に○円の売上/利益を達成すること」という数値目標だけを与えられて途方に暮れる、ということも珍しくありません。そのため、上記の内容だけでも大いにその指針になるとは思いますが、この本のいいところは具体的な手法よりもそういう「新規事業担当者が持つべきマインド」を教えてくれるところ。いかにして状況をポジティブに捉えるか、経営者や上司・同僚、ときには社内で壁となる相手を味方につけるか、の考え方について、自身の経験や実例をふまえて教えてくれるところにあると思います。漠然とした目標や社内の高い壁に心が折れそうになったり、ともすると事業計画を通すことそのものが目的化してその後の成功のための道筋をつけられなかったりしがちな新規事業立ち上げを「これなら俺にも何とかやれそうかな」と勇気づけてくれる内容になっています。

全くの新規事業立ち上げでなくとも、新商品の企画も既存商品の正統後継でもない限り、どこかしら新しい提案や挑戦の要素が含まれているはずです。そういう企画は程度の差こそあれ、どこかで必ず商品化の壁に突き当たるもの。そういうことに関しても、この本に書かれている「考え方・動き方・通し方」を実践することで実現に近づくことができるのではないでしょうか。
いち社会人として常に傍らに置いておき、定期的に読み返すことで前向きに挑戦する姿勢を保ち続けたい。そう思わせてくれる一冊です。

投稿者 B : 23:59 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2016/08/24 (Wed.)

ソニー復興の劇薬 SAP プロジェクトの苦闘

西田 宗千佳 / ソニー復興の劇薬 SAP プロジェクトの苦闘

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西田宗千佳氏の新著を電子版にて読了。一週間くらいかけるつもりで読み始めたら乗ってしまって、二時間ほどで一気に読み切ってしまいました。

「wena wrist」や「HUIS REMOTE CONTROLLER」といった新分野の商品やサービスを手がけるソニーの新規事業創出プログラム「SAP(Seed Acceleration Program)」の内側をまとめたルポルタージュです。タイトルにこそ刺激的な言葉が並んでいますが、実際の関係者への取材をもとに、西田氏自身が電機業界やハードウェア・スタートアップへの取材等を通じて得た知見を交えて、客観的にまとめた内容になっています。

「SAP」はソニー自身が大規模なリストラを敢行している段階で開始されたプログラムだけに社内外からの批判もあったようですし、「大企業がクラウドファンディングを利用するなんてただの宣伝行為だ」「SAP で生み出されている新規事業はいずれも小粒でお遊びの域を出ていない」といった言説も目にします。実際、同社の既存のエレクトロニクス事業は今後の成長が見込めるか高い利益が確保できる分野だけになってしまった印象で、IT/AV 機器の付加価値の多くをスマートフォンが吸収してしまった現在、「次のメシのタネ」を見つけるのに各社苦労しているのは事実。なので小粒でもいいから試行錯誤して、何が伸びてくるか見極めたい...というのも SAP の本音としてはあるのでしょう。
しかし、個人的には SAP の本質は次世代の事業を牽引できる人材の育成と、企業体質のゆるやかな変革にこそあると考えています。マーケティングや商品企画の仕事をしていると、「自分は新しい商品のアイデアを持っている。これは絶対売れる」と自称する人と出会うことが少なくないですが、そのほとんどが「単に自分が欲しい」の域を出ておらず、どんな人が買うのか、顧客層の規模はどれくらいあるのか、ちゃんと量産できるのか、販路や売場そしてユーザーサポートはどうするのか...ということに考えが至っていないものです。実際、世の中のハードウェアスタートアップの失敗は、大半がアイデアと原理設計・試作以降の部分に手が回っていないことが原因と言って良い。ものづくりというのは、本当はものを作ること自体よりも、それをちゃんと事業にできるだけの資金を調達して、必要な数を作って世に出すことのほうが大変なものです。

そういう意味で SAP は「ものをちゃんと作る」ための仕組みはソニーという大企業のプラットフォームを利用しながら(つまり、一般的なハードウェア・スタートアップでよくある失敗は避けられる可能性が高い)、小規模でもちゃんと事業を立ち上げて回せるだけの人材を発掘・育成するための仕組みと言って良いでしょう。人員や組織の役割を縦横に細分化した大企業では、現業は効率的に運営できても、こういう混沌とした時期に新しい事業を立ち上げる小規模なチームを組織することは難しい。一人あるいは少人数で全体を見通して事業を組み立てる経験を積むことで、たとえ今の新規事業は小粒でも、彼らが次、あるいはその次に立ち上げる事業は大きな花を咲かせるかもしれない。そういうことだと思います。ひとりの外野としては、そういうスタートアップ事業に大規模な R&D の成果を惜しみなく投入できる体制は羨ましすぎますが...。

でも、というのはあくまで SAP の目的と理念の話。現時点で世に出ているプロジェクトの中では、ちょっと面白いと思えても自分でベットしたくなるものはまだ出てきていないんですよね。
ただソニーの現業に関しても、金融とエンタメ以外はもうすっかりカメラとオーディオの会社になっちゃって、イノベーションよりは事業維持にベクトルが向いている印象。しかもどんどん高級路線に行っていて、俺の買うものがほとんどなくなってきたなあと感じてもいます。SAP から、「俺らをワクワクさせてくれるソニー」のタネがもう一度生まれてきてくれることを願ってやみません。

投稿者 B : 23:24 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2016/02/04 (Thu.)

ランチェスター戦略「小さな No.1」企業

先日転職もしたことだし、ちょっとマーケティングの原点に帰ってみようと思って、久しぶりにランチェスター関連の本を読みました。

福永 雅文 / 45 社の成功事例をリアルに分析! ランチェスター戦略「小さな No.1」企業

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私が以前、繰り返し読んでいた『ランチェスター戦略「弱者逆転」の法則』『ランチェスター戦略「一点突破」の法則』の著者である福永雅文氏による、同著の続編的な位置づけの著書です。

私がマーケティングを考える上で最優先の根拠としているのは、ランチェスター戦略とそれに基づいた差異化。とても汎用性の高い考え方であり、あらゆる分野に応用できるマーケティングの基礎だと思っています。どんな市場であれ、ひとつの勝者以外は全員が敗者であり、勝者には強者の、敗者には弱者の戦略が当てはまる。基本的に強者の戦い方はミート戦略(他社に対して同質な商品を出す)によるライバルの陳腐化であり、弱者の戦い方は市場のセグメント化と差異化に尽きる。それが解っていてもそう簡単に勝てないのがビジネスの難しいところですが、解っているのと解っていないのとでは戦略の組み方が天と地ほども違うわけです。
私の今までの経験上(他社事例の分析も含め)、ある市場では弱者あるいは新参者であるにも関わらず、過去に強者だった経験や別のセグメントで強者であるが故に弱い分野でも強者の戦略を採りたがり、失敗する例には枚挙に暇がありません。業界 2 位なのに 1 位と同じようなことをやっている万年 2 番手企業というのは、誰でも一社や二社は思い浮かぶものです。また、「ターゲットを絞る」とか「ニッチ市場を狙う」という単語に拒絶反応を示す人も少なくなく、万人受け施策を採らされた結果やっぱり失敗した...というのもよくある話。正直、自分で思い出しただけでも臍を噛む思いをした経験も一度や二度ではありません。それくらい、自社の強みを把握し、狙うべき市場を限定して、そこで確実に勝ちに行くための戦略こそが、マーケティングの根幹と言えます。

そう思っているので、自分の部署に若手が入ってきたときには、必ずと言っていいほど福永氏のランチェスター戦略の著書をはじめとするマーケティングの基礎の書籍をいくつか渡してまずは勉強してみてよ、ということを長年続けてきました。が、何人もの後輩に貸すうちに手元に返ってこなくなってしまったので、続編と言えるこの著書を買ってみたというわけです。

この本はそんなマーケティングの基礎であるランチェスター戦略に関して、中小企業の事例ばかりを 45 も集めた事例集です。ランチェスター戦略そのものに関する説明も後半に書かれていますが、入門者がまず最初に読むべきは同氏の『「弱者逆転」の法則』のほう。本書はその内容を理解した上で近年の事例に関して知識のアップデートを行うための本と言って良いでしょう。

紹介されている事例は配達酒販のカクヤス、町田・でんかのヤマグチ、ヘルスメーターのタニタ、H.I.S. に買収されて復活した長崎ハウステンボス、といった時折マスメディアでも紹介されるほど有名な事例から、今回初めて名前を聞いたような企業までさまざま。共通しているのはいずれも中小企業であり、厳しい環境においても差異化と一点集中を軸とした営業戦略で生き残ってきた、という点。ポイントは「勝ち残ってきた」ではなく「生き残ってきた」というあたりで、いたずらに規模の大を追うのではなく、限定された市場でも確実に自分たちが生き残り、顧客と良好な関係を築いている企業ばかりだという点でしょう。特に経済全体の成長が止まろうとしている現代では、どうやって生き残っていくか、こそが企業にとっての懸案と言えます。

ビジネス書としては一般的なボリュームの中で 45 もの事例を紹介しているだけあって、一つ一つの事例はせいぜい 4~6 ページ。もともと雑誌連載だったものを書籍化したものなので、成功のストーリーが完結にまとめてあるだけで、それほど分析が深いとは言えません。それぞれの企業が一発で鉱脈を掘り当てたわけはないし、成功に至るまでには数々の失敗や試行錯誤があっただろうから、むしろそのプロセスこそ知りたかった。まあ、有名な成功例のいくつかは他により詳細な文献があるでしょうし、この本をきっかけにして、自社に近い事例に出会い、自分なりに深掘りするのが正しい学び方なんでしょうが。
でもやはりこれだけ中小企業の事例を見てくると、差異化と一点集中は弱者戦略の基礎としては当然重要だけど、規模が小さければ小さいほど「大手には(投資効率の面で)やれないことを差異化ポイントにする」ことと「自分たちで売り切る営業力」こそが重要なんだなあ、というのが見えてきます。これは、以前の立場で弱者戦略を考えていたときにはあまり重視していなかった部分で、そこに気づけただけでもこれを読んだ意味はあったなあ。

やりたいこととやれることの間にギャップがあるのが現実のビジネスではありますが、自社の得意分野が活きる市場と差異化、それに徹底的に集中することを、今一度じっくり考えたいと思います。

投稿者 B : 23:59 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2016/01/25 (Mon.)

物欲なき世界

タイトルに惹かれて読んでみました。

菅付 雅信 / 物欲なき世界

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「モノが売れない時代」と言われて久しい現代。私がいる業界も例外ではなく、先細りの業界、と言われています。まあ世界はともかくとして、日本の内需向け産業全体に言えることだと思いますが、私なりにも原因はいくつか思い当たっていて、

  • 少子高齢化に伴い、消費欲の強い若者の購買力が落ちてきた
  • スマートフォンの普及で様々なものの価値がスマホに集約され、スマホと機能が重複する機器が売れなくなった
  • 適法/違法を問わず無料で消費できるコンテンツが増えた結果、コンテンツにお金を払う動機が薄れた
  • コンテンツの電子流通が普及したことを発端に、「所有しない」価値観が徐々に一般化してきた
  • 手軽で無料/安価な娯楽が増えた結果、旅行などの「金のかかる娯楽」への需要が減った
  • 日本人の価値観が多様化し、娯楽が多様化した結果、大ヒットが生まれにくくなった=あらゆるジャンルでフォロワー層が薄くなった
  • 娯楽が多様化し、時間消費が細分化した結果、好きなモノ・コトに対するこだわりが薄れた
  • 現代の若者は物心ついたときから物質的・情報的に過多な環境にあり、欲求のもとになる枯渇感がない
  • 「実質ゼロ円」「EDLP」などの販売手法が当たり前になった結果、モノの価値が認められにくくなった
といった要素の複合要因なんだろうなあと。もちろんこれ以外にもいろいろあるとは思いますが。 ただ、これらは私の感覚や仮説に過ぎず、誰かが社会構造の変化とそれに基づいた消費構造の変化についてまとめてくれないかなあ、と常々思っていたので、これは読まざるを得ないと思ったわけです。

読んでみた結果...お、おう。言わんとしていることは分からないでもないけど、結論は「反資本主義」。資本主義のど真ん中に生きている我々からすれば、だからどうしろと、という話に感じました。地球の大きさが有限である以上永遠の成長なんてないし、いつかどこかで規模の経済からは脱却しなくてはならないけど、特に成長もなく再生産を繰り返すだけの活動に経済は耐えられるのだろうかと。まあこれ自身が資本主義の重力に魂を引かれた奴の発想なのかもしれませんが...。
「モノからコトへ」とか「商品ではなくライフスタイルを売る時代」なんてのは業界によっては十年以上前から言われ続けていることだし、拝金主義・物欲主義から脱却して、自然回帰的なゆったりとした暮らしをすべき、みたいな話もいつの時代にもある(批判的な言い方をすれば)ファッションみたいなもの。もっと、世界的な産業構造の変化が最終的な消費行動にどう変化をもたらしているのかを語らないと、単なる事例紹介で終わってしまうと思います。

個別の事例の中にはいろいろと示唆に富んだものもありましたが、全体としてはちょっと求めていたものとは違ったかな。個人的には、本書の中で紹介されていたアスキー総研・遠藤諭氏の指摘が興味深かったです。要約すると、かつての我々世代の物欲というのは、所有すること自体が自己表現の一部だったし、情報源も限定されていたから自分自身が所有していることが重要だった。が、インターネットやソーシャルメディアを通じてコミュニケーションすることが一般的になると、情報源も多様化して自分自身の価値が相対的に低下するから、所有して見せびらかすことで自己顕示欲を満たせなくなってくる。そうすると所有することに価値がなくなる、というもの。そういう点では明らかに旧世代に入る私には理解しにくい話ですが(笑)、ロジックとしては分からなくもない。まあ、それを知りたければ本書よりも遠藤諭氏の著書を読むべきだったのか(ぉ。
私は「究極のエンタテインメントはプレミアムコンテンツでもアミューズメントパークでもなく、個人同士のコミュニケーションだ」というのが持論ですが、そういう意味で考えると、あらゆるモノもコンテンツも体験も、「コミュニケーションを通じて消費するためのネタ」に過ぎないのかもしれません。物欲なき世界、というのはある種、コミュニケーションそのものがエンタテインメント化した、成熟した世の中の姿なのかも。

投稿者 B : 23:59 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2016/01/09 (Sat.)

すごい家電 いちばん身近な最先端技術

西田 宗千佳 / すごい家電 いちばん身近な最先端技術

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暮れに発売されていた西田宗千佳氏の新著を、年末年始のお休みを使って読破しました。

ビジネス書や新書が多い氏の著作としては珍しい、講談社ブルーバックスからの発売。というわけで、読者もビジネスマンや IT/家電業界関係者よりはむしろ高校生くらいを想定し、かなり読みやすい文体と噛み砕かれた表現で書かれています。
タイトルの通り家電について書かれていますが、スマホや PC といった IT カテゴリではなく、純然たる家電がメイン。テレビやレコーダのような「黒物家電」も控えめで、ほとんどがいわゆる「白物」、つまり洗濯機や冷蔵庫などの生活家電のお話。

あらゆる分野の家電に関して、そのルーツから歴史、そして最新の製品に採用されている技術までを解説しており、これさえ読めば白物家電の基本的な部分は理解できてしまいます。もっと技術トレンド寄りなのかと思ったら、かなり基本的な部分から解説されており、業界関係者でなくとも理解しやすくためになる内容。

本書はパナソニックの全面協力を得て執筆されているため、競合他社が引っ張っているトレンドに関しては弱い部分もありますが、その分パナソニックの開発陣への綿密な取材に基づいて書かれており、表面的な解説にとどまらない深みがあるのもポイントです。昨年末の小寺西田メルマガの忘年会でご本人にお会いした際にご本人からこの本の執筆にまつわるお話をいろいろ伺ったのですが、たとえばトイレ(便器)の開発には排水効率を検証するために「疑似便」を使っており、(汚い話ですみませんが)さまざまな状態を再現した疑似便の開発にも、それぞれのメーカーごとのノウハウが蓄積されている...というような話を伺いました。飲み食いしながらそんな話をするのもどうかとは思いますが(ぉ)、最終的には平易な内容にまとめられているものの、各ジャンルにおいて開発陣にそういったレベルの取材を繰り返したからこその深みが溢れています。

私はスマホや PC、カメラならばまだしも、白物家電に関しては実際に買い換える段になってようやく最新のトレンドを調べることがほとんど。三年半前に引っ越した際に大物の家電類を買い換えましたが、それ以降の状況は追いかけていませんでした。が、これを読む限りでは、現在の家電のトレンドは「ヒートポンプを活用した高効率な熱交換」と「センサと内蔵コンピュータを使った緻密な制御」で、エネルギー消費を抑えつつユーザーの利便性を高める、というのが製品カテゴリを問わず共通した方向性のようです。ちょっと前だと NFC を使ったスマホ連携みたいな派手目な(割には実利が少ない)機能ばかりが持ち上げられていましたが、実際には地味だけれど実利のある部分も着実に進化しているようですね。
白物家電というのは基本的に「家事を楽にして、生活の質を高める」という普遍的な目的によって買われるものなので、あらゆる家電が普及した現代ではもう進化の余地が少ない、あるいは進化しても買い換える必然性を感じない、と見られることが多いのが実情でしょう。が、ロボット掃除機だったり羽根のない扇風機だったり、あるいは BALMUDA のスチームトースターであったり、人間の本質的な欲求を見つめ直して新たな価値軸を提示することで、イノベーションを起こせる余地はまだまだあるはずです。そういう意味では、いったん進化の踊り場に差し掛かったスマホよりもむしろ、白物家電が今面白いのかもしれません。

大人が読んでも面白いですが、これは理工系に興味を持ち始めた中高生にこそ読んでほしい一冊だと思います。

投稿者 B : 22:32 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2015/10/25 (Sun.)

ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える

西田 宗千佳 / ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える

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西田宗千佳氏の新著を読了。

タイトルにこそ「ネットフリックス」と入っていますが、Netflix の話題一辺倒ではなく、むしろ Netflix の日本上陸を契機としたデジタルコンテンツ流通に起きている変化の「今この瞬間」を総合的にまとめた書物、と言えるでしょう。
電子書籍における Kindle、音楽配信における Spotify(これはまだ日本参入できていませんが)と並び、「SVOD の黒船」と言われている Netflix。この上陸によって国内の動画コンテンツ流通は大きく変わるのでは、と言われていますが、数年前に Hulu が上陸したときにも同じように騒がれたものの、Hulu によって業界構造が大きく変わったかと言われれば、実際そうはなっていません。そこには地上波という無料放送が圧倒的に強い放送事情だったり、狭い国土の至るところに TSUTAYA があるビデオレンタル事情だったり、複雑なコンテンツの権利関係だったり、アメリカと日本のお国事情の違いが反映されています。しかし、FTTH や LTE といった通信網の整備、放送や光ディスクメディアに先駆けた 4K フォーマットへの対応など、VOD に時代の追い風が吹いているのも事実。すぐに放送レンタルビデオ店がなくなって VOD が主流になるとは言いませんが、個人的には 3~5 年の間には VOD が放送やビデオレンタル業から見ても無視できない市場に育ってくるのではないか、と考えています。そういう意味で、誰かが現状をまとめてくれないかなと思っていたところに、ちゃんと出してくれるのがさすがの西田氏(笑。

書籍の内容は、宅配型 DVD レンタルから始まった Netflix のビジネスモデルの変遷、Netflix のコアコンピタンスとも言われている強力なレコメンド機能の秘密、オリジナルコンテンツ製作に注力する理由、など Netflix の(主にアメリカでの)強みを分析。その上で、Hulu・dTV・TSUTAYA といった国内の VOD サービサーを分析し、誰が勝つかではなく業界としてどこを目指し、今後の主戦場がどこになりそうかといった視点でまとめられています。
また、VOD サービスの視点だけで見ていては市場として伸びるかは断言ができないところ。そこは見逃し配信等に関連した放送局側の事情や、各個人のメインウィンドウがテレビからスマホに取って代わられてしまった現状、そして業界動向として相似形をとる音楽コンテンツ流通で何が起こったか...といったあたりからまとめられています。正直なところ、音楽の「定額聴き放題制」も実質的には今年始まったばかりなので何とも言えない市場ですが、少なくとも「光ディスクを買う/借りる」という消費スタイルを過去のものにしたという意味では、VOD の未来を占う上で重要なヒントが隠されていると思えます。

個人的に Netflix と並んで注目しているのが、Amazon プライム・ビデオの動向。本書の中ではあっさりめにしか触れられていませんが、Netflix をはじめとする通常の VOD サービスが「コンテンツ配信自体を主軸とした真っ当なサービス」であるのに対して、Amazon プライム・ビデオは SVOD サービスでありながら、ユーザーによっては「Amazon プライムに加入していれば勝手についてくる SVOD サービス」という位置づけになるわけで、これが SVOD というサービスの価値にどういう影響を与えるか、にはとても興味があります。当初「お急ぎ便無料」から始まった Amazon プライムは今や様々な付加価値サービスの集合体となっており、単体のサービスに月額を払うのはもったいないけどこんなにあるなら ¥3,900/年 は全然高くない、という消費者も少なくないのではないかと。まあ、Amazon プライム・ビデオ単体に関しては、国内版 Netflix と同様にまだまだ始まったばかりであり、これからのサービスではあるのですが。

私自身は普段からたまに TVOD(単品レンタル相当の都度課金サービス)は利用しているものの、SVOD には加入していません。普段からドラマやアニメをそれほど観ていないということもあって、月額 1,000 円前後をペイするとは思えないのが理由なんですが、最近あまり観てない ANIMAX に月額払い続けてるよねとか娘たちが毎週借りてる TSUTAYA の DVD を SVOD に切り替えればそれだけでお釣りが来るよねとかセルフツッコミ要素がたくさんあるのも事実です(笑。まあ娘たちの TSUTAYA に関しては、物理的な上限を設けておかないといつまででも女児アニメを見続けるからあえてそうしているというのもありますが...。
ただやっぱり、個人的にもそろそろ普段から何かしらの SVOD サービスに触れていないと何かに乗り遅れるよなあ、と思っているフシもあったりして。そろそろ本気で何か検討しますかね。

投稿者 B : 21:47 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2015/01/16 (Fri.)

MOT ―テクノロジーマネジメント

グローバルタスクフォース / 通勤大学 MBA 〈11〉 MOT ―テクノロジーマネジメント

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「スマートフォンはあらゆる電気製品の価値を吸収した」と最近よく言われます。実際、スマートフォンとその先に繋がっているクラウドサービスが既存のハードウェアを代替し、スマホ一台あればかなりのことができる世の中になったことは事実でしょう。でも、IT やエレクトロニクスに携わっている人の多くが「もっと便利に、もっと効率的に、もっと楽しく」を目指していろんな価値をスマートフォンに集積していった結果、確かに便利で効率良くはなったけれどもなんだかつまらない、という状況に息苦しさを感じているのもまた事実だと思います。
一昔前だったら PC やモバイル機器に入れ込んでいた私やその周囲の人々が最近ではカメラと写真に熱を入れるようになったのも、おそらくそれがまだ物理的制約に囚われて電子化しきれない、昔ながらのハードウェアの愉しみがまだ残されているから、という側面があるのではないでしょうか。

「良いものを作りさえすれば売れた」時代はとうに過ぎ去り、技術とビジネスモデルを組み合わせてようやくモノが売れる時代。日本の製造業の凋落が叫ばれていますが、それは決して技術力が衰えたわけではなく、時代の変化に合わせたビジネスモデルを創造することと、それを推進できる経営がなされてこなかったことが原因でしょう。
ビジネスモデル創造について学んだら、次は技術を正しく活かす経営について学びたくなったので、この書物を手に取って(電子版だけど)みました。

この本は、MBA で学ぶような内容を通勤中に学んでしまおうというコンセプトで作られたシリーズのようです。これで MBA 相当の知識がついたらこんなにオイシイ話はないわけですが(笑)、概要を体系的に理解したい人にとってはちょうど良くまとめられた内容になっています。製品開発プロセスから技術戦略、R&D、知財、他社とのアライアンスや生産管理・資材調達まで、企業の開発・生産活動全般にわたってまとめられています。まあ 10 年以上前の書物なので、あくまで技術的優位性を軸にした製造業の話に終始しているのはちょっと物足りませんが、それでも現在も製造業が日本の主力産業であることは間違いないわけで、今でも十分通用する考え方だと言えます。
私自身も、今までに部分的にはいくつか関わったことがあったり知っているものはあっても、こうやって全体を俯瞰して見ることはなかったので、頭の中が整理される内容でした。

ただ、それほどページ数が多いわけでもないので、どの話も基本的にフレームワークの説明に留まっていて、具体例に乏しい=実感としての理解にはちょっと物足りないと感じました。このあたりは実際の MBA であればケーススタディやロールプレイ等を通じて腹落ちしていくところだと思うので、そのへんは独学の限界かもしれません。
あと、全体に書き方が教科書的すぎて、読んでいて眠くなるのは困りましたね(笑。

あとは自分で実地での経験をふまえ、いかに技術を活用して市場に受け容れられるビジネスモデルに結びつけるか、が勝負ですね。がんばらないと。

投稿者 B : 23:33 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2014/11/14 (Fri.)

ビジネスモデル・ジェネレーション

久しぶりにビジネス書。

アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール / ビジネスモデル・ジェネレーション

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最近の私の仕事は、純粋なマーケティングよりも戦略系とかビジネスモデル企画とかそっち寄りのものが中心になってきています。そのあたりは専門ではなかったのでいろいろと勉強ながらやっているところですが、この本に書かれている内容はその根幹とも言える部分。ビジネスモデル構築に必要な要素を分解し、客観的に評価できるフレームワーク「ビジネスモデルキャンバス」に表現した上で、そのビジネスモデルがどういった類のモデルなのか、その強みと弱みは何なのか、を把握しよう、というものです。

この手法は現代の新規ビジネス開拓においてはスタンダードになっているもので、この本で紹介されているビジネスモデルキャンバスは、多くのビジネスモデル研修等でも使用されています。聞くところによると、このフレームワークは専門領域が違ってもそのビジネスモデルの強みと弱み、リソースやお金の流れが一目瞭然に把握できるので、シリコンバレーのベンチャーキャピタルでは標準的に使われているとか。実際に私も書いてみましたが、確かに専門領域が違う人とフレームワークを見せ合っても、それのどこが強くてどこが弱点なのかが理解できます。また、自分の考えたビジネスモデルが自分では「ここがハードルだろうな」と思っていたのが、他の人からはむしろ違うところに弱点があると指摘されるなど、パワポで絵にしていただけでは分からなかった部分まで見えてきます。パワポだとどうしても自分に都合が良い前提条件で描いてしまうため、弱点が覆い隠されてしまいがちですからね。

ビジネス書とはいっても、一般的なビジネス書とはだいぶ体裁が違って、デザインや装丁が非常に凝ったものになっています。第一印象としては「広告業界系のコンサルが好きそうな体裁の本だな」という感じだったのですが(笑、ビジネス書なのに横長だしカラフルだし、内容を書かずにあくまでイメージのためのページまであるし、ビジネスにこそクリエイティビティと柔軟な発想が必要、と言われているように感じました。まあ、正直ビジネス書としては読みにくくて、独習のための本というよりはむしろセミナー用のテキストとして使うのがいいんじゃないかな、という雰囲気。フォーマットが自由すぎて、読んでて疲れます(笑。

さまざまな業界のビジネスモデルも事例として紹介されていて、近い業界でもビジネスモデルはずいぶん違うんだなとか、逆に違う業界なのにビジネスモデルとしては同じなんだなとか、そういう意味でもいろいろな発見があります。実務をやっていると、ついつい技術や商品、サービス単体の強さに依存したビジネスをやってしまいがちですが、そういうのは市場の成熟や長期戦、消耗戦に弱いもの。ビジネスモデルを周到に構築して利益をしっかり確保できる者が最終的に勝つのが現代のビジネスなわけで、私もそこをもっと磨いていきたいと思います。

投稿者 B : 23:59 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2014/03/15 (Sat.)

PlayStation 4 ができるまで -日本発売までの 367 日間

西田 宗千佳 / PlayStation 4 ができるまで -日本発売までの 367 日間

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ジャーナリスト西田宗千佳氏の新著を読みました。とはいっても前著『顧客を売り場に直送する』と同様、インプレス AV Watch の連載『西田宗千佳のRandomTracking』および MAGon『西田宗千佳のRandom Analysis』に掲載された記事の再編集で構成されたものです。電子版のみの販売で、主要な電子書籍ストアでの取り扱いがありますが、私は発売元のインプレス MAGon から直接購入。MAGon は DRM フリーの EPUB で配信してくれるので、取り回しが良いんですよね。

基本的には既出記事の焼き直しなので、MAGon を購読していればわざわざお金を払って買うほどのこともないのですが、私は去年あまりにも忙しくて IT 系のニュースを拾い切れていなかったし、MAGon もほぼ斜め読み状態だったので、改めてまとめ読みできるのはありがたい。
製品発表から日本発売までの 367 日間に、西田氏が SCE のアンドリュー・ハウス社長や PS4 アーキテクトのマーク・サーニー氏、ワールドワイドスタジオのプレジデント吉田修平氏らに対して取材したインタビューを中心に、時系列にまとめたものです。IT 系ジャーナリストの西田氏らしく、PS4 のプラットフォームやアーキテクチャ、ビジネスモデルなどが軸で、ゲーム内容に触れた話が少ないため、ゲーム好きな人よりもテクノロジー好きや業界関係者向けの内容と言えるでしょう。後半には MS の Xbox 関係者への取材も交え、PS4 と Xbox One が目指すものの共通点と相違点を整理してあるあたりも、業界が向かっていこうとする方向を把握するという点で興味深い。

PlayStation にしても Xbox にしても、PS3/Xbox 360 世代までは結局は「いかにゲーム機単体のハードウェア性能を高めてゲーム体験を向上させるか」の競争だったのに対して、スマートデバイス/ソーシャルゲームの隆盛とコンソールゲーム市場の縮小をふまえ、PS4/Xbox One では「いかにゲームを遊んでもらうまでの敷居を下げるか」「ビッグタイトル以外でもビジネスが成立するようなエコシステムを作るか」「ソーシャルネットワークをどう巻き込むか」「クラウド技術をどう利用するか」といった点に、各プラットフォームの工夫と差異化の軸が変化してきているのは事実でしょう。ソーシャルゲームに代表されるフリーミアムモデル中心のライトゲームからコンソールらしいコアゲームへのブリッジをどう架け、裾野自体は広がっているゲーム人口をいかにピラミッドの上の方に引っ張り上げるか、の戦いと言ってもいいのかもしれません。そういう意味では、プラットフォームやビジネスモデルの視点から俯瞰することで、ゲーム業界の次の未来を占う材料になる一冊と言えます。
また、既に PS4 が手許で動かせる状況で、この著書を読みながら PS4 を触ることで、発売前に示されていたビジョンがどういう形で具現化されたか、を改めて確認してみるのも面白い。

ただ、そうは言ってもまだまだ国内受けする PS4 のゲームタイトルが少ないことは事実なんですよね。買ってプレイした人たちは異口同音に『龍が如く 維新!』が面白い、と言っていたりするのですが、私は既にゲーマーでなくなって久しいからなあ...。PS4 がプラットフォームとして挑戦的であればあるほど、「自分にとってのキラータイトル」がまだ存在しないことが惜しい。ここはやはり、無料体験版や Live from PlayStation で自分が楽しいと思えるゲームを探してみるかな...。

投稿者 B : 00:40 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

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