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2011/01/24 (Mon.)

ヤマダ電機の暴走

立石 泰則 / ヤマダ電機の暴走

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人に勧めておきながら自分で読み切れていなかった書籍を、ようやく読了。

日経ビジネス・週刊ダイヤモンド・東洋経済などの経済誌でここ数年、よく特集が組まれるようになったこともあって、私もヤマダ電機の仕組みについてはある程度知っているつもりでした。この書物はそういった既知の情報が網羅されているのに加えて、創業者の山田昇氏(現会長)の生い立ちから創業期に至る話まで掘り下げられているので、知らなかった情報や観点が得られて非常に興味深い内容でした。

専門学校を卒業後ビクターに就職し、組織の限界を感じて独立、松下電器(現パナソニック)系列の販売店を経て総合家電量販店化。群馬県に生まれて現在では全国ネットワークを網羅するようになった「国内家電流通の王者」は、「安さこそ価値」という信念のもと規模の拡大と調達コストの圧縮を両輪に、ひたすら拡大路線を突き進んでいます。それは、「タイムマシン経営」という言葉が認知されるようになる遙か以前から、アメリカ最大の家電量販店 Best Buy の経営手法を日本で再現しようとしていたのかもしれません。

いっぽうで、いち顧客として見たときのヤマダ電機は、私の自宅から最も近くにある大手家電量販店の一つであり、価格も(量販店としては)最安値クラスであるにも関わらず、これだけ電気屋好きな私がなぜか積極的には行きたいと思えないお店です。それはおそらく低価格にこだわるあまり、「売れ筋のものを大量に調達して仕入れ価格を下げる代わりに、売れ筋でないものはバッサリ切る」というヤマダ電機の売り方に私の好みがあっていないからだと思います。
私はどちらかというと売れ筋 No.1 でとにかく安い商品よりも、最先端であったりハイエンドであったり何か人と違うものであったり、ニッチ商品(よく言えばこだわりの強い商品)を好む傾向があると自覚しています。それに対してヤマダ電機には「ヤマダ電機が売りたい商品」しかないから、行っても楽しくないのでしょう。こう感じるのは私や私の親しい仲間うちくらいのものかと思っていたら、本書の中にも「ヤマダ電機に行って目当ての商品がなかったらヨドバシに探しに行くけど、最初にヨドバシに行って売っていなかったらヤマダには行かない」という消費者の例が挙げられていて、そういう顧客は案外少なくないんだなあ、と改めて気づかされました。電気製品にこだわりがなく、壊れたら初めて電気店に行って、置いてある選択肢から選ぶ・・・という高齢者が多い地方(ヤマダ電機も地方発祥の電気店)と、リテラシが高く指名買い顧客の多い都市部(カメラ系量販店の出自)とで顧客(全てではないにしろ)の行動が大きく異なる、ということに気がついていないか、気がついていてもどう対応して良いか分からないのかもしれません。もしくは、そういう顧客であっても価格になびく、と考えているのか。

まあ、価格差が一定以上に大きくなれば、嗜好品以外はコモディティ的要素が強くなり、低価格に流れる顧客の割合が大きくなるのは経済の原理だと思うので、それは否定してもしょうがないですが。
でも、例えばユニクロが価格以外の価値を提案するようになって、多くの顧客がもつユニクロのイメージが変わってきたのに対して、ダイソーを「ブランド」と認知している顧客がどれだけいるか?を考えれば、「価格が最大の価値」という戦略は、諸刃の剣であると思います。

さておき、本書は家電業界関係者のみならず、家電業界(の流通寄りの部分)に興味がある人や、マーケティングや経営戦略に興味がある人も読んでおいて損はない一冊だと思います。いろいろな観点で読める本だとは思いますが、私はこの本を読んで「価値」とはどういうことか、改めて考えさせられたなあ。

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2010/10/18 (Mon.)

世界で勝てるデジタル家電

西田 宗千佳 / メイドインジャパンと iPad、どこが違う? 世界で勝てるデジタル家電

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記憶に新しいところではこの春に『iPad VS. キンドル』を出版したジャーナリスト・西田宗千佳氏の最新の著作が発売されたので、読んでみました。

本著もキャッチーなタイトルではありますが、多面的でフラットな業界分析はさすがの一言。同じく最近出版された、本田雅一氏の『3D 世界規格を作れ!』とは扱っているテーマこそ違え、どこかのメーカーだけに肩入れすることなく(肩入れしているとしたら日本の電機メーカー全てに)、世界における日本の電機産業の現状を的確に分析した上で応援している、という点で非常に似ていると感じました。

内容的にはタイトルどおり「iPad/iPhone は何がすごいのか」をビジネス/設計/プラットフォーム/開発思想それぞれの面から分析し、Apple が仕掛ける製造業の王道「少品種超大量生産」と日本企業の「高付加価値」の対比、今後の家電産業の鍵を握るプラットフォーム戦略の重要性、日本企業の「品質」の考え方と消費者の多くが考えるプライオリティ、そしてゲームの「ルールを変える」ということ。よくもまあ、これだけ多岐にわたる事柄を整理して一冊の本にまとめた、というくらいにまとまっている本です。私も、この本に書かれていることのほとんどは知っていましたが(特によく知っていることも多く書かれていましたが)、こうやって全方位的に整理してドン!と突きつけられると、何か見えてくるものがあるような気がします。
少なくとも、ここ数年の日本メーカーが取り組んできた「多品種少量生産」による多様なニーズへの対応は、一部の市場では成功しているけれども、それだけで全ての市場をカバーできるわけではない。むしろ圧倒的マスに向けたプロダクトで量産性(裏を返せばコスト)と品質を両立することができなければ縮小均衡しか残っていない、というのは、認めざるを得ない事実だと思います。

また、最終章に書かれていた「ルールを変える」という話は、私の中でずっとモヤモヤとしていて『なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか』という書物にその答えを求めてみたけど全然書かれていなかったことがここに書かれており、胸の中が晴れ渡るような快感を覚えました(だからといって、それを実践するのは並大抵のことではないけども)。

最近は Apple の一人勝ちのような状況が(一部市場では)起きていて、大手経済紙/誌でも「強い Apple とイノベーションを起こせない日本企業」のような対比で語られることも少なくありません。ある意味、いろんな状況が重なって日本の電機産業が自信を失っているのが現在だと思いますが、これだけ客観的かつ多面的に取材を行っている西田氏に、こう断言されていることが、微かな自信に繋がるような気がします。

日本の競争力が失われた、と多くの人が言う。
しかしそれは、日本の技術力が失われたからではない。(中略)日本にはまだまだ技術力があるのだ。だが、それを日本国内で消費されるデッドエンドで浪費したことが間違いだった。
そして、こういうエールを送ってくれている下りで、私は本当に涙が出てきました・・・。
今後、家電製品や IT 機器の多くが iPhone や iPad のようなルールで作られ、販売されていくのだとすれば、勝つためには量が必要だ。その上で品質の追求をせねばならない。
日本も、高度成長期には「外」で戦ってきた。今も、ゲーム機や 3D で勝負をかける人びとは、明確に世界を視野に戦っている。
われわれに必要とされているのは、そういったジャンルをもっといくつも見つけること、そして、戦おうとする人びとの足を、無関心やつまらない利権でひっぱらないことだ。(中略)日本の技術は、僕たちが思っているほど弱くなんかない。お願いだから、彼らを全力で戦わせてあげてはくれないだろうか。
日本の製造業が再び世界で強い競争力を得るには、越えるべきハードルがいくつも存在します。また、自分たちの努力だけではなく、政府が「未来のこの国のカタチをどうしたいか」にも大きな影響を受けることも事実です。ただ、少なくとも現状に嘆き、諦めていては始まらない。再び自信を得て、(Apple や Google の真似ではない)世界で戦う戦略を編み出すことによってのみ活路が見いだせることを肝に銘じ、明日からまた歩んでいかなくてはなりません。

最後に、この一枚を貼っておきたいと思います。著者の西田氏ではなく、先日行われた本田さんの『3D 世界規格を作れ!』の発刊記念セミナー(Ustream で録画を試聴できます)において、本田さんが「伝えたかったこと」。きっと西田さんも同じ気持ちであり、日本のメーカー関係者であれば、誰もが元気になれる言葉。

僕からお伝えしたいこと:ニッポンの電機屋さん、想像するよりずっと強いんです

投稿者 B : 23:59 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2010/10/08 (Fri.)

インサイド・ドキュメント「3D 世界規格を作れ!」

本田 雅一 / インサイド・ドキュメント「3D 世界規格を作れ!」

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今週の CEATEC もまさに 3D 祭りの様相を呈していましたが、今年の家電業界全体が盛り立てようとしている 3D のこれまでを詳細にまとめた本です。といっても技術解説や製品比較ではなく、主に 3D をリードするパナソニックとソニーの製品発売に至るまでのドキュメンタリー形式になっています。

書籍のタイトルは「3D」を冠していますが、実際にはここ 7~8 年の映像業界の動きを描いた内容となっていて、実に前ページの 1/3 は Blu-ray と HD DVD が争った次世代 DVD 戦争の経緯を記したもの。この内容自体は以前東洋経済誌に掲載された同氏の記事にも書かれていたことがあり、大まかな経緯は私も知っていましたが、それをさらに詳細化した内容になっています。
映像業界がここまで 3D を志向するのは、フル HD 化をほぼ完了させた業界が 4K2K に向かっていく前のステップとして踏む必要があるためで、必然性のあるもの。それにプラズマと液晶のテレビの技術競争が絡んで現在の状況に繋がっています。そういうことが、DVD~Blu-ray 時代の家電業界とハリウッドの関係や韓国メーカーとの競争関係なども踏まえながら綴られており、非常に興味深い内容となっています。まさに 2000 年前後からこれらの業界を渡り歩き、それでいてフラットな視点で取材と執筆を続けてきた本田氏でなければ書けなかったドキュメンタリーと言えるでしょう。

しかしこの著書の特筆すべきは、3D 人気に乗って発売された技術解説書でも、メーカーの内情の暴露本でもなく、本田氏自身があとがきにおいて

日本の家電メーカーで名前も知られずに働き、日本の大きな外貨獲得手段となっている家電産業を下支えしている多数のエンジニアたちがいる。本書は、彼らがどんなことを成し遂げようとしてきたのかを記すために書き始めました。

と述べているように、日本の家電メーカーが彼らにしか生み出せない価値を実現するために努めている事実を事例として著すことで彼らを励まそうとしていることにあるのではないでしょうか。最後のくだりで、

重要なのは、手がけた技術がビジネスとして成功し続けるように画策することではない。かつての成功体験に安住せず、夢を見続けることだ。懸命に汗をかきながら、前へ前へと進む努力が"魔法"を生み続ける原動力なのだから。
(中略)われわれの想像をはるかに超えて、日本の電機メーカーが持つ底力は大きい。彼らは現代の魔法使いとして振る舞う術を、世界でもっとも知っているはずなのだから。

という一節を読み、私でさえ失いかけた自信を取り戻させてくれるような熱さを感じました。

残念ながら最近の私はあまり思うような仕事につけていないのですが、近いうちにきっとまた業界の先端、切っ先の部分で世の中の(一部でも良い)パラダイムを先に進めるための仕事についていたい。その渦中において、人類の進歩に少しでも貢献できた実感が得られるならば、この著書に描かれているエンジニアやビジネスマンたちのような過酷な状況で働くことになっても構わない、とすら思います。

3D や AV 家電に興味がある人に限らず、国内の製造業やハイテク産業に何かしらの形で携わっているならば、一読して損はない良著ではないでしょうか。

ちなみにこの書籍は、購入者限定で全文 PDF の無償配布を行っています。入手には購入者のみに提供されるダウンロードコードが必要ですが、ダウンロードさえしてしまえば PDF なので、後の取り回しは非常に自由度が高いです。

たとえば iPhone/iPad への持ち出しならば、iTunes に PDF ファイルをドラッグ&ドロップするだけで、

3D 世界規格を作れ!

自動的にライブラリに追加されます(「ブック」カテゴリがない場合は自動的にカテゴリが追加される)。あとは iPhone と同期すれば、

3D 世界規格を作れ!

「iBooks」アプリに表示されるという仕掛け。

3D 世界規格を作れ!

ただ、iPhone 3GS ではちょっと画面の解像度が低すぎて、ページ全体表示では可読性に難あり。ピンチインで拡大すれば読めますが、そうするとスクロールの回数が多くなってしまうので、それはそれで読みづらい。iPhone 4 の Retina Display なら読めそうな気がしますが、私は結局紙の本+PC 上の PDF で読みました。ただ、今後は電子書籍に適したモバイル端末がいろいろと出てきそうなので、この試みには素直に賛同します。

3D が題材であるだけでなく、国内の書籍としては珍しいこうした試みまで含めて、まさに「今」が凝縮された一冊ですね。

投稿者 B : 22:48 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2010/07/23 (Fri.)

マーケティングはつまらない?

関橋 英作 / マーケティングはつまらない?

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元 docomo の夏野剛氏のツイートで知って読んでみた著書。マーケティング全般に関わる本で、もとは日経ネットマーケティング内の連載「マーケティング・ゼロ」を要約し書籍化したもののようです。
内容に関しては徳力さんの読書メモが秀逸にまとまっているので省きますが、これを読んで私が感じたことなどを少し。感想文というよりも、むしろ私のマーケティング観みたいな話になりますが。

そもそもマーケティングとは何のことかというと、教科書どおりに説明するならば、「企業の活動の全て」。私は「マーケティングは経営そのもの」と理解しています。
といっても抽象的ですかね。はてなキーワードの解説がとても端的に表していたので引用すると、

マーケティングとは - はてなキーワード

製品、流通、価格、販促・広告、これら全ての要素をいかに組み合わせるかが「マーケティング」である。
とのこと。つまりは「何を」「誰に」「どうやって」作って売るか、という企業活動全般を指すことだと分かるでしょう。

でも、「マーケティング」と名のつく会社や部署は実際には広告宣伝やマーケティング・リサーチ、販売などといった、得てして狭義の「マーケティング」業務しか負っていないことが多いのが現実だと思います。逆に言えば、「マーケティング」的な考えかたは、「マーケティング」と名のつく会社や部署に所属する人だけでなく、その事業に携わる全ての従業員が持っている必要がある、と私は考えています。
さらに言えば、単に自分に与えられた目先の仕事だけでなく、その企業の思想や市場にもたらす価値といった創業者/経営者的な視点をどれだけ多くの社員が持てているか、が企業の競争力、もしくは社会的価値を決めると言っても過言ではないと思います。以前読んだ『ランチェスター戦略「一点突破」の法則』に書いてあった言葉を引用するなら、「企業の持つ理念こそが最大の差異化要素であり、最強の武器」だと思っています。

話を本書の内容に戻すと、そういった広い意味での「マーケティング」の観点から、広告宣伝や PR、コミュニケーション戦略といったことを語っているのが本書。紹介されている事例が多い割に説明がシンプルなので行間を読まなければちょっと理論が飛躍して感じる部分もありますし、Web 連載からの抜粋再編集なのでやや話題が散漫な印象も受けます。また、著者の出自ゆえか「代理店の人」っぽい言葉遣いが慣れない人には鼻につくかもしれませんが、変に奇をてらった内容ではなく、真っ当なことが平易な言葉で表現されているため、確かに腹に落ちるものが多いです。また、海外事例を多数挙げてトレンド紹介に終始しがちなこのジャンルにおいて、ほとんどが日本国内の事例で、日本人を相手にしたマーケティングに絞って書かれているのも、意外と珍しいながらも貴重だと思います。
中でも、私が特に共感したのはこのくだり。

もともとマーケティングとは、今生きている人が潜在的に欲しいと願っているものを具現化させて、世の中の役に立つこと。消費者に「うれしい!」「ありがとう!」と言ってもらえるものを提供すること。その行為を通して、メーカーと消費者が Win-Win の関係になること。私はそう思っています。
とすれば、メーカーが開発したものを効率的に売っていくことをデザインするだけではなく、消費者の心に眠っているものを探し出して実現することが求められます。

マーケティングの神髄は「緻密な人間観察」にある、という私の信念は間違っていないんだよね!と自信を持たせてくれる言葉です。そう、マーケティングとは「人間賛歌」なのだッ!(ぉ

いっぽうで、私も常に気をつけていなくてはならない・・・と思いながらも、気がつくと囚われているのが、これ。

これが、人間の敵であり、マーケッターの敵でもある「固定観念」です。(中略)もちろん、世の中には常識が必要です。それがなければ大混乱が起きてしまうでしょう。しかし、その必要な常識が、いつの間にか固定観念化して、マーケッターの脳をセメント状態にしているのです。

ちょうど、BS hi で放送中の『スター・ウォーズ』を観ていて、ヨーダの台詞に対して

固定概念を捨てる。やってみるのではなくやる。フォースもモバイラー道もマーケティングも同じだ(笑。

とつぶやいた直後にこれを読んだので、あまりのタイミングの良さに自分で驚きました(笑。

最近、また前職のシステム屋っぽい仕事の割合が増えていて、マーケティングや商品企画っぽいことを考える時間が減っているので、またいずれそんな仕事をする日のために、錆びつかないように自分を磨いておかなくては。

投稿者 B : 23:59 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2010/06/10 (Thu.)

iPad VS. キンドル

西田 宗千佳 / iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏

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電子書籍のまさに「今」を切り取った書物。読みたいと思っていたけど業界動向系の本はすぐに陳腐化するし・・・と思っていたら図書館にあったので、借りて読んでみました。

内容はざっくりこんな感じ。

  • Kindle のビジネスモデル
  • Sony Reader および iPad との比較
  • 電子書籍がこれまで歩んできた歴史
  • 電子書籍のビジネスモデルについて、アメリカの事例を引用しながら整理
  • 日本の電子書籍/出版業界が置かれた現状と、今後の展望
『iPad VS. キンドル』といういかにもキャッチーなタイトルがつけられてはいますが、そんな表面的でうすっぺらい内容の本ではなくて、電子書籍の過去現在未来についてかなり多角的かつフラットに捉えた非常に良いテキストにまとまっています。

私も個人的に興味があって電子書籍関連の情報をそれなりに追いかけているので、もしかしたら知ってる内容ばかりかなというのを少し危惧していたのですが(実際ソーシャルメディア関連の書籍はそうやって買ってがっかりしたものが少なくない)、本書には私にとって新しい情報もけっこう充実していました。
電子書籍の歴史の話(アラン・ケイの Dynabook 構想から始まるとは恐れ入った)については過去の事例はほとんど網羅され、関係者にも直接取材を行っているほか、筆者とエンターブレインによるアンケート調査の結果、そして出版社側で始まっている動きに関する解説はなかなか他では読めない話。特に Web の情報に頼ると出版社側の動きの実態は正確には見えにくいので(出版社=既得権者=悪もしくは旧態保守という構図で表現されがち)、そのあたりまでしっかり取材して、機器やサービス提供側/出版社側/消費者側のいずれにも寄らずに客観的に示したという点では、非常に価値のある書物だと思います。

また、主題とは少しずれますが、「著作権は『銭金の問題』だ」とハッキリ書かれていることも重要だと思いました。著作権が単に金銭の問題かどうかは議論の余地があるとは思いますが、著作権が問題になる原因のほとんどは金銭。他業界で起きている「銭金と文化のすり替え」ではなく「収益の再分配」に主眼を置くことが、その業界がビジネスとして存続していくために必要なのだろうと思います。

本書に関しては筆者の主張がない、という批判もあるようですが、個人的にはこの書物は西田氏らしく客観的かつフラットに電子書籍の現状を分析したことに価値があり、そこから何を考えるかは読者に委ねられているのだと感じました。
ビジネスで関係する/しないに関わらず、電子書籍やコンテンツの電子化といった問題に興味がある人ならば一読して損はない良著だと思います。私も業界動向本ならお金を払うまでもないかなと思っていましたが、手元に置いて何度も参照する価値はあると思いました。この本こそ電子書籍で欲しいんですが、どうやら発売が遅延しているよう。電子書籍版が発売されたら、改めて購入したいと思います。

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2010/05/19 (Wed.)

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

岩崎 夏海 / もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

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話題の著書、今さらではありますが私も読んでみました。

表紙のインパクトが強いですが、萌えライトノベルとかでは全然なくて、中身はとても硬派なビジネス書。そりゃドラッカーの『マネジメント』を題材にした著書なので、軟派になりようがないのですが(笑。

タイトルにあるとおり「もし高校野球の女子マネージャーが『マネジメント』を読んだら」という設定は単なるオヤジギャグですが(笑、リアルなビジネスに携わってる人じゃなく、普通ならマネジメントになんて縁のない若者がマネジメントに取り組んだら・・・という仮定なのが、逆に『マネジメント』の内容をデフォルメ化してこれだけ読みやすい(多少強引な設定もあるけど、それはそれ)内容にまとまっているんだろうな、と感じました。

本著で示されているのは『マネジメント』の中でも要点だけをさらっとなめたにすぎない内容だと思いますが、例えば企業活動は「顧客の要望を聞くところから始まる」「顧客の期待に応える」ことが最も重要ではあるけれど、でもそれは「言われたことをその通りにする」ではなく「本質的な欲求がどこにあるか」を見極めて、それに応えていくことが本質で、それを実現するための方法論が『マネジメント』には書かれているんだろう、ということがよく解りました。

この本のおかげで自分が今やっていることはきっと間違っていないという確信が持てたと同時に、これは改めてドラッカーを勉強してみる価値はあるなあ、と思ったのですが、一般論として書かれている(場合によっては単なる正論にしか聞こえないようなことを)自分の周囲に起きている具体的な事柄に当てはめて考えていくのってけっこう骨が折れるんですよね。私は転職したての頃、それでコトラーを途中でストップしてしまったので、今回も最後までいけるかどうか。とりあえず書店に行ってパラパラめくってみてこよう・・・。

投稿者 B : 01:00 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2010/05/07 (Fri.)

ずるい!? なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか

ここしばらくアウトプットするばかりだったので、ちょっといろいろなことを吸収したくなって、最近ひさびさにビジネス書を読んでいます。まずは Twitter で紹介いただいたこの本から。

青木 高夫 / ずるい!? なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか

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ホンダで海外営業を経験し、現在は渉外部で対政府関係の仕事もしている著者の経験に基づいた、主にビジネスの場での欧米と日本の「ルール」に対する考え方・取り組み方の違いに関して述べた本です。かいつまんで説明すると、日本人は「ルールはお上が決めるもので一般人は策定のプロセスに関与する必要はなく、一般人はそれを守るもの」という考えが刷り込まれているのに対して、欧米人は「ルールは策定する段階から参画するもの。場合によっては自分が有利になるようにルールを変更すべき」というマインドで、基本的には日本人ももっとルール作成プロセスへの関与を積極的にしていくべきだ、というお話。

ビジネスの場に限らず、例えばスポーツ界でもこういうことは日常茶飯事で、本書の中でも柔道の国際ルール変更の話や、1980 年代後半の F1 ターボ禁止ルール(当時はホンダエンジンの黄金期だった)など、「欧米は日本人が勝ち始めるとルールを歪めて欧米人に有利にする」という話はよく聞きます。最近ではフィギュアスケートの採点ルール変更が問題視されましたが、個人的には(フィギュアという「スポーツ」にとっての現行ルールには強く疑問を抱いているものの)とにかく金メダルを獲らせるために国を挙げて最大限のアプローチをした韓国と、選手に全て任せて何もしなかった日本・・・という対比を見るにつけ、やはり多くの日本人にとっての「スポーツ」って所詮その程度のものでしかないんだろうな、と少し絶望的な思いを抱いています。また、F1 からのホンダやトヨタの相次いだ撤退も、やはり「F1 の一員」としての自覚に欠けあくまで参加者にすぎず、ある面では F1 に体よくお金を奪われただけ、という見方もできます。
原理主義的に考えればそりゃスポーツに政治を持ち込むのはフェアではないのかもしれませんが、ある程度はそのスポーツに注目を集める活動(より観る側にとって面白くなるルール作りも含む)は必要で、そういうものも含めてそのスポーツの発展があるのも事実。まあ日本人は伝統的に「●道」というスポーツ、というより自己鍛錬のための競技が主流だったので、こういう考え方はそれこそ邪道と言われかねませんが。
でも、F1 で例えるならば、純粋にマシン+ドライバーの速さだけで予選も決勝もやったら今年の開幕戦のように全く面白くないレースばかりになるのも事実でしょうし、ある程度古くから F1 を観ている人にとっては「コース外での駆け引きまで含めて F1、むしろグランプリが始まるまでのプロセスが重要」というのも事実だと思います。

さておき、個人的には最近「ビジネスのルールを変える」ことをよく考えているのですが、私はこういう本当の意味での「ルールや法律」を変えることを考えているというよりは、むしろイノベーションによって生活や市場にパラダイムシフトを起こすという意味での「ルール変更」のほうに興味を持っています。例えば、音楽と言えば家で聴くものだった時代に「外で歩きながら音楽を聴く」という文化を創ったり、紙媒体やパッケージメディアを電子媒体化することで流通だけでなく言論やコミュニケーションのあり方を変える、といったような。それによって経済の構図が変わる=ルールが変わる、ということを考えています。既存のルールの中で最大限に勝率を上げるためのアプローチも重要ですが、そういうのを考えるのが得意な人は他にいくらでもいるので。

そういう意味では、本書は私が求めていた内容とはちょっと方向性が違ったのですが、それでも今まであまり持っていなかった観点が身についたり、ちょっとした発見がいろいろ得られたり、読んだ価値はありました。私はあまり政府や業界団体に関係する仕事をしていませんが、それでも例えば「自分がやりたい仕事をするために、社内の業務プロセスやルールを変えることを考える」ということに対して少し前向きになれたり、とか。

平易な文章で書かれていて比較的短時間でも読みやすい本なので、興味があれば一読をおすすめします。

投稿者 B : 01:38 | Book | Business | コメント (1) | トラックバック

2009/12/01 (Tue.)

Twitter 社会論

『Twitter 社会論』読了。

津田 大介 / Twitter 社会論 ~新たなリアルタイム・ウェブの潮流

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Twitter のスピード感的には少し旬を逃したかなと思いつつも、一応読んでみました。

内容や感想については Twitter 上で津田氏本人に RT されてしまったので今更多くを語るものではないですが、Twitter の成り立ちから現状、社会に及ぼしつつある影響までを解説しつつ、いわゆる「tsudaる」テクニックや勝間和代氏との対談までを網羅した、現時点での(主に日本での)Twitter の現状をうまく輪切りにした書物だと思います。逆に tsuda 氏をフォローして氏のつぶやきを毎日目にしている読者の視点では、やや発言がおとなしすぎて物足りない側面はありますが(笑。

でも、読んでいる間ずっと感じていたのは、Twitter の歴史はインターネットが十数年の時間をかけて辿ってきた歴史の縮図であり、そしてこれからその先に向かおうとしているのでは?ということ。Twitter が築いてきたコミュニケーションのあり方は、CGM の観点から見た Web コミュニケーションのそれを凝縮したようなもので、違いといえば Twitter のほうがまだオープン性とボトムアップ性を強く保っていて、かつ時間の尺度がずっと短い(リアルタイム性が高い)ということくらい。
インターネット上のリアルタイムコミュニケーションが今後 Twitter に集約されるとは必ずしも言えず、Twitter を補完/代替するサービスが出てくる可能性も十分に考えられますが、Twitter が Web のリアルタイム性という点で新たなパラダイムをもたらしたと言っても過言ではないでしょう。1990 年代が ARPANET から Yahoo! に至るスタティック Web の時代、2000 年代が Google を中心としたダイナミック Web の時代、2010 年代は Twitter をはじめとするリアルタイム Web の時代、というのは大げさかもしれませんが、そういう観点で本著の『新たなリアルタイム・ウェブの潮流』というサブタイトルは、実によくつけたものだなと感心させられます。

そういう意味で、今までインターネットが辿ってきた歴史になぞらえて Twitter の歴史を振り返ってみると本著の内容はそれほど目新しいものばかりでもないような気はします。が、そこから先に期待される未来、という意味では、この本を読んで Twitter に限らずリアルタイム Web の可能性をもう少し探ってみたい、と思わせてくれるだけのものはありました。個人的にはその点、「あとがき」が一番面白かったかもしれません。

Twitter のヘビーユーザーで、ネット上のコミュニケーションの可能性だったりそこから発生するビジネスチャンスを(流行りとしてでなく)探りたいと考えている人なら、一読の価値ありかと思います。

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2009/05/27 (Wed.)

グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略

シャーリーン・リー、ジョシュ・バーノフ / グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略

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この分野で私淑する人たちが挙って奨めていたので、前々から気になっていた一冊です。2 月に買っていたんですが、流し読みではなく熟読が必要な内容だと感じたので、時間がかかってしまいました。
「グランズウェル」といっても何のこっちゃ、という人も多いと思いますが、Web 2.0 とか CGM/WOM と呼ばれているものをテクノロジーでもなく、「いわゆる」マーケティングでもなく、もっと企業活動全体に影響する大きなうねりとしてとらえる、といったあたりの意味です。

私もここ 2 年ほどこの分野の書籍を読み漁っていますが、単純な事例紹介のサマリーでお金を取る本が多くてうんざりしたのは事実。でもこの書籍は事例から抽象化して「企業はどうあるべきか」ということを、グランズウェル活用/共存の各局面に対してまとめてくれている、とても良いテキストだと思います。この種の書物の中では、『ウェブ進化論』と同じくらい共感し、勇気づけられたような気がします。自分自身で経験してきたことも多いので、ものすごく新しい発見があったというわけではありませんが(むしろその経験が間違っていなかったことを再確認した感じ)、企業人として会社のプロセスにどうやってグランズウェルを融合していったらいいか、ということについては、保証をもらえたような気がしています。個人的には、数年で陳腐化する技術の話よりも、経営的観点でどうグランズウェルと向き合うか・・・的な言論を読みたいと思っていたので、とてもためになりました。

分厚いハードカバーで内容も多岐にわたるため、個別の引用なんかは行いませんが、この分野について真剣に取り組む覚悟がある人なら、読んでみて損はないと思います。私も自分で貼った付箋をつけたまま、職場のマネージャー陣に回したいくらいの書物です。

投稿者 B : 23:45 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2009/02/27 (Fri.)

V 字回復の経営 ――2 年で会社を変えられますか

上司の薦めで読んでみました。

三枝 匡 / V 字回復の経営 ――2 年で会社を変えられますか

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「赤字事業を短期間でいかに建て直すか」にフォーカスした経営術の本。組織改革のメソドロジーをモデルケースで描いた書物で、ある企業の経営改革をサクセスストーリー的読み物としてまとめつつ、合間に要点を差し込む形で編集されているので、とても読みやすいです。

経営の本というと、ちょっと身構えなくては読めない小難しさを感じてしまいますが、この本が示す道は非常にシンプル。いかに社員の共感を得て、モチベーションを高めて改革を成功させるかに至るリーダー論と、そのためにはシンプルで明快なプロセスが示される必要があることを繰り返し述べています。
同じようなことでも、ロジックが通っていないと単なる浪花節になったり、体育会的な精神論だけに終始して実効は何もない・・・みたいなことは、ちょっと周りを見渡してみただけでも溢れかえっていますが、そういうケースは得てして「誰にでも納得できて実行可能な改革プランの提示」がないものです。

実話をもとにしたというモデルケースはちょっとあまりにもフィクション的展開すぎて、「できすぎ」と突っ込みたくなる部分も多少ありますが、大事なのはこの例で示されている考え方。この考え方をいかに自分の中で消化して、自分の会社に適用できるかという目線で読むと、たくさんのヒントが隠されています。あと、自分がいる組織の現状のダメさ加減も(汗。また、同時にそれを他人事ととらえるのではなくて、翻って自分自身に落ち度はなかったのか、を省みることができなければ、何も変えられないのも事実。

私は転職するときに、外部からの改革者のつもりで今の職場に飛び込んだつもりでしたが、いつの間にか単なる「状況の一部」となっていないか?正しいと信じていたことが、本当は全く間違っていたのではないか?
経済環境的には、ここ数年の不況なんて戯れ言に過ぎなかったくらい「未曾有の危機」が訪れている状況だから、もっと、あらゆることを根本から疑ってかかるくらいの気持ちで、根本的な改革を考える必要があるのだと思います。
いろんな企業で「お客様目線」が叫ばれる近年ですが、たぶんそれだけでは足りなくて、いち社員に至るまで、経営者視点と顧客視点の両方をもってひとつひとつの状況に対処する必要があるのだと思います。でも、口先だけでなく意識の根底にその考えを徹底させるには、多少のショック療法は免れないだろうなあ・・・。

この本に書かれていることは「至極まっとうなこと」ばかりですが、シンプルにわかりやすくまとまっているというだけで、ここまで多くの気づきを与えてくれる、という点では、ビジネスの世界に身を置く人間であれば一読して損はないと思います。

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