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2010/10/08 (Fri.)

インサイド・ドキュメント「3D 世界規格を作れ!」

本田 雅一 / インサイド・ドキュメント「3D 世界規格を作れ!」

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今週の CEATEC もまさに 3D 祭りの様相を呈していましたが、今年の家電業界全体が盛り立てようとしている 3D のこれまでを詳細にまとめた本です。といっても技術解説や製品比較ではなく、主に 3D をリードするパナソニックとソニーの製品発売に至るまでのドキュメンタリー形式になっています。

書籍のタイトルは「3D」を冠していますが、実際にはここ 7~8 年の映像業界の動きを描いた内容となっていて、実に前ページの 1/3 は Blu-ray と HD DVD が争った次世代 DVD 戦争の経緯を記したもの。この内容自体は以前東洋経済誌に掲載された同氏の記事にも書かれていたことがあり、大まかな経緯は私も知っていましたが、それをさらに詳細化した内容になっています。
映像業界がここまで 3D を志向するのは、フル HD 化をほぼ完了させた業界が 4K2K に向かっていく前のステップとして踏む必要があるためで、必然性のあるもの。それにプラズマと液晶のテレビの技術競争が絡んで現在の状況に繋がっています。そういうことが、DVD~Blu-ray 時代の家電業界とハリウッドの関係や韓国メーカーとの競争関係なども踏まえながら綴られており、非常に興味深い内容となっています。まさに 2000 年前後からこれらの業界を渡り歩き、それでいてフラットな視点で取材と執筆を続けてきた本田氏でなければ書けなかったドキュメンタリーと言えるでしょう。

しかしこの著書の特筆すべきは、3D 人気に乗って発売された技術解説書でも、メーカーの内情の暴露本でもなく、本田氏自身があとがきにおいて

日本の家電メーカーで名前も知られずに働き、日本の大きな外貨獲得手段となっている家電産業を下支えしている多数のエンジニアたちがいる。本書は、彼らがどんなことを成し遂げようとしてきたのかを記すために書き始めました。

と述べているように、日本の家電メーカーが彼らにしか生み出せない価値を実現するために努めている事実を事例として著すことで彼らを励まそうとしていることにあるのではないでしょうか。最後のくだりで、

重要なのは、手がけた技術がビジネスとして成功し続けるように画策することではない。かつての成功体験に安住せず、夢を見続けることだ。懸命に汗をかきながら、前へ前へと進む努力が"魔法"を生み続ける原動力なのだから。
(中略)われわれの想像をはるかに超えて、日本の電機メーカーが持つ底力は大きい。彼らは現代の魔法使いとして振る舞う術を、世界でもっとも知っているはずなのだから。

という一節を読み、私でさえ失いかけた自信を取り戻させてくれるような熱さを感じました。

残念ながら最近の私はあまり思うような仕事につけていないのですが、近いうちにきっとまた業界の先端、切っ先の部分で世の中の(一部でも良い)パラダイムを先に進めるための仕事についていたい。その渦中において、人類の進歩に少しでも貢献できた実感が得られるならば、この著書に描かれているエンジニアやビジネスマンたちのような過酷な状況で働くことになっても構わない、とすら思います。

3D や AV 家電に興味がある人に限らず、国内の製造業やハイテク産業に何かしらの形で携わっているならば、一読して損はない良著ではないでしょうか。

ちなみにこの書籍は、購入者限定で全文 PDF の無償配布を行っています。入手には購入者のみに提供されるダウンロードコードが必要ですが、ダウンロードさえしてしまえば PDF なので、後の取り回しは非常に自由度が高いです。

たとえば iPhone/iPad への持ち出しならば、iTunes に PDF ファイルをドラッグ&ドロップするだけで、

3D 世界規格を作れ!

自動的にライブラリに追加されます(「ブック」カテゴリがない場合は自動的にカテゴリが追加される)。あとは iPhone と同期すれば、

3D 世界規格を作れ!

「iBooks」アプリに表示されるという仕掛け。

3D 世界規格を作れ!

ただ、iPhone 3GS ではちょっと画面の解像度が低すぎて、ページ全体表示では可読性に難あり。ピンチインで拡大すれば読めますが、そうするとスクロールの回数が多くなってしまうので、それはそれで読みづらい。iPhone 4 の Retina Display なら読めそうな気がしますが、私は結局紙の本+PC 上の PDF で読みました。ただ、今後は電子書籍に適したモバイル端末がいろいろと出てきそうなので、この試みには素直に賛同します。

3D が題材であるだけでなく、国内の書籍としては珍しいこうした試みまで含めて、まさに「今」が凝縮された一冊ですね。

投稿者 B : 22:48 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2010/08/17 (Tue.)

オールドレンズ パラダイス 2

澤村 徹 / オールドレンズ パラダイス 2

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澤村 徹氏のオールドレンズ本の新著が発売されたので、読んでみました。

フォーマット的には前作『オールドレンズ パラダイス』のそれを踏襲しており、今回はマイクロフォーサーズ機で使えるオールドレンズとマウントアダプタについての解説が網羅されています。紹介されているレンズは従来の DSLR ではフランジバックの都合で使用できなかったミノルタ MD やキヤノン FD、あるいは各社のレンジファインダー機やシネレンズ、マニアックなところではオリンパス PEN F やペンタックス auto110 といった「マイクロフォーサーズならでは」のオールドレンズ群にフォーカスしており、M42 や Y/C などの代表的なオールドレンズマウントについては省略されているため、前作と併せて読むのが良いかと。
個人的には NEX では CONTAX G レンズをひととおり試してから他のレンズに手を出してみたいと思っていますが、MC ROKKOR-PG 58mm F1.2 とか New FD85mm F1.2 あたりのレンズは試してみたいところ。レンズの「味」がオールドレンズの醍醐味ではありますが、逆に最近ではなかなか製品化されない・あるいは発売されていても高くて手が出ないスペックのレンズが比較的安価に楽しめるのも、オールドレンズの良さじゃないかと思います。
あとは NEX で使うならミノルタの M-ROKKOR(ミノルタが Leitz と共同開発したレンジファインダー機「ライツミノルタ CL」用の M マウントレンズ)を使うのも粋かもしれません。

澤村氏にはこの勢いで旬の NEX を題材に『パラダイス 3』を執筆してほしいところではありますが、レンズチョイスが m4/3 とかなりかぶるので、難しいかなあ。

投稿者 B : 01:00 | Book | Camera Mook | コメント (0) | トラックバック

2010/08/01 (Sun.)

ソニー NEX-5 NEX-3 ナビゲーションガイド

ソニー NEX-5 NEX-3 ナビゲーションガイド

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NEX のムックはソニースタイルでの購入特典でもらったのが 1 冊あるので買わないつもりでいましたが、ちょっと異色とも言える興味深いムックが出たので買ってみました。

デジタルカメラのムックというと、たいていは使い方の解説とプロカメラマンによる作例、そして純正レンズ(まれにレンズメーカー製の互換レンズ)の紹介、というつくりが典型的で、私も新しいカメラを買ったら 1 冊記念買いする程度でした。
でもこのムックは、通常とはやや異なった構成で、初心者向けの内容も押さえてはあるものの、作例はより具体的に実際のシチュエーション(使いかた)を想定したもので既にカメラをある程度知っている人でも参考になるし、なんといっても後半のオールドレンズ特集が圧巻。

オールドレンズ特集はもはや今この人を置いてオールドレンズは語れないという澤村 徹氏の監修で、単にオールドレンズの紹介に留まらず、オールドレンズ+カメラドレスアップを組み合わせたデジカメ Watch の連載「デジカメドレスアップ主義」の出張拡大版といった雰囲気になっています。
ここで紹介されているマウントアダプタは現在国内で正規流通している製品に限られるので、残念ながら KIPON の CONTAX G-NEX マウントアダプタ(現時点ではネットオークション等でしか入手できない)が掲載されていないのが残念ですが、それでも現状の NEX でのマウントアダプタ遊びの概要を把握するには十分な内容じゃないかと。一部デジカメ Watch の連載と重複している内容もありますが、サードパーティ製のストラップ/ケースも数多く紹介されているので、買って損はないと思います。
このムックの実に約 1/3 の分量がオールドレンズ+ドレスアップに割かれているのには正直恐れ入りました(笑。

NEX でのオールドレンズ遊びのために近々発売される『オールドレンズ パラダイス 2』も購入するつもりでいますが、こちらも楽しみ。

投稿者 B : 23:53 | Book | Camera Mook | コメント (0) | トラックバック

2010/07/23 (Fri.)

マーケティングはつまらない?

関橋 英作 / マーケティングはつまらない?

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元 docomo の夏野剛氏のツイートで知って読んでみた著書。マーケティング全般に関わる本で、もとは日経ネットマーケティング内の連載「マーケティング・ゼロ」を要約し書籍化したもののようです。
内容に関しては徳力さんの読書メモが秀逸にまとまっているので省きますが、これを読んで私が感じたことなどを少し。感想文というよりも、むしろ私のマーケティング観みたいな話になりますが。

そもそもマーケティングとは何のことかというと、教科書どおりに説明するならば、「企業の活動の全て」。私は「マーケティングは経営そのもの」と理解しています。
といっても抽象的ですかね。はてなキーワードの解説がとても端的に表していたので引用すると、

マーケティングとは - はてなキーワード

製品、流通、価格、販促・広告、これら全ての要素をいかに組み合わせるかが「マーケティング」である。
とのこと。つまりは「何を」「誰に」「どうやって」作って売るか、という企業活動全般を指すことだと分かるでしょう。

でも、「マーケティング」と名のつく会社や部署は実際には広告宣伝やマーケティング・リサーチ、販売などといった、得てして狭義の「マーケティング」業務しか負っていないことが多いのが現実だと思います。逆に言えば、「マーケティング」的な考えかたは、「マーケティング」と名のつく会社や部署に所属する人だけでなく、その事業に携わる全ての従業員が持っている必要がある、と私は考えています。
さらに言えば、単に自分に与えられた目先の仕事だけでなく、その企業の思想や市場にもたらす価値といった創業者/経営者的な視点をどれだけ多くの社員が持てているか、が企業の競争力、もしくは社会的価値を決めると言っても過言ではないと思います。以前読んだ『ランチェスター戦略「一点突破」の法則』に書いてあった言葉を引用するなら、「企業の持つ理念こそが最大の差異化要素であり、最強の武器」だと思っています。

話を本書の内容に戻すと、そういった広い意味での「マーケティング」の観点から、広告宣伝や PR、コミュニケーション戦略といったことを語っているのが本書。紹介されている事例が多い割に説明がシンプルなので行間を読まなければちょっと理論が飛躍して感じる部分もありますし、Web 連載からの抜粋再編集なのでやや話題が散漫な印象も受けます。また、著者の出自ゆえか「代理店の人」っぽい言葉遣いが慣れない人には鼻につくかもしれませんが、変に奇をてらった内容ではなく、真っ当なことが平易な言葉で表現されているため、確かに腹に落ちるものが多いです。また、海外事例を多数挙げてトレンド紹介に終始しがちなこのジャンルにおいて、ほとんどが日本国内の事例で、日本人を相手にしたマーケティングに絞って書かれているのも、意外と珍しいながらも貴重だと思います。
中でも、私が特に共感したのはこのくだり。

もともとマーケティングとは、今生きている人が潜在的に欲しいと願っているものを具現化させて、世の中の役に立つこと。消費者に「うれしい!」「ありがとう!」と言ってもらえるものを提供すること。その行為を通して、メーカーと消費者が Win-Win の関係になること。私はそう思っています。
とすれば、メーカーが開発したものを効率的に売っていくことをデザインするだけではなく、消費者の心に眠っているものを探し出して実現することが求められます。

マーケティングの神髄は「緻密な人間観察」にある、という私の信念は間違っていないんだよね!と自信を持たせてくれる言葉です。そう、マーケティングとは「人間賛歌」なのだッ!(ぉ

いっぽうで、私も常に気をつけていなくてはならない・・・と思いながらも、気がつくと囚われているのが、これ。

これが、人間の敵であり、マーケッターの敵でもある「固定観念」です。(中略)もちろん、世の中には常識が必要です。それがなければ大混乱が起きてしまうでしょう。しかし、その必要な常識が、いつの間にか固定観念化して、マーケッターの脳をセメント状態にしているのです。

ちょうど、BS hi で放送中の『スター・ウォーズ』を観ていて、ヨーダの台詞に対して

固定概念を捨てる。やってみるのではなくやる。フォースもモバイラー道もマーケティングも同じだ(笑。

とつぶやいた直後にこれを読んだので、あまりのタイミングの良さに自分で驚きました(笑。

最近、また前職のシステム屋っぽい仕事の割合が増えていて、マーケティングや商品企画っぽいことを考える時間が減っているので、またいずれそんな仕事をする日のために、錆びつかないように自分を磨いておかなくては。

投稿者 B : 23:59 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2010/07/10 (Sat.)

小さなお店のツイッター繁盛論

豚組のオーナー @hitoshi さんの『ツイッター繁盛論』を読みました。

中村 仁 / 小さなお店のツイッター繁盛論 お客様との絆を生む 140 文字の力

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ここまでバラしちゃって良いの!?と思うくらい、豚組の Twitter 活用法について解説された著書です。おそらくお店のクオリティに高い自信があること、そして何より他店にはなかなか真似のできない「顧客との信頼関係」が築けていて、ツールや手法だけ真似してもそう簡単に追いつかれないからこそ、ここまで暴露してしまっているのだろうと思います。
また、飲食業を始める前はマーケティングやブランディングの仕事をされていたこともあり、Twitter を通じてやっていることは全て深い洞察と理論だった信念に基づいているのだろうな、と感じていましたが、その根拠が改めて綴られている本でもあります。

店舗を「コミュニティ」を深める場ととらえ、顧客との信頼関係を軸に商売を成立させていく、という考え方は、私が今の仕事においてライフワークと考えていることにかなり近く、ああ、この思想があるから私は @hitoshi さんという方に共感できるのだな、と思いました。

私にとっては、お店に来てくれた人をお客様と呼んでいるだけであって、それが私とその人との関係のすべてを言い表すものではない。その人はときには友人であり、そしてときにはお客様となる。無理を承知でひと言でその人との関係を定義するなら、その人は私の「仲間」だ。

こういう考え方は、解釈によってはもしかしたら企業においては問題視されてしまうかもしれませんが、私もこういう考え方をベースに顧客と付き合いたいと思っています。
お互いに敬意と礼儀に基づいた対等な関係で、変にへつらうこともなく、気持ち良く付き合っていける間柄。そういう敬意があるからこそ、「安ければいい」ではなくて、商品やサービスに見合うだけの対価を「進んで払いたい」と思える間柄。そういう関係性が、私にとっての理想です。「CR」とか「CS」という言葉にすると最近ではむしろ「マイナスにならない」ことが目的だったりしてしまうので、あえて言うなら「顧客エンゲージメント」のほうが概念的には近いかもしれません。

閑話休題。最近では Twitter に代表されるようなソーシャルメディア・マーケティングは特殊なスキルが求められるものと思われがちですが、私の持論は「ソーシャルメディアといっても単なる媒体に過ぎず、取るべき振る舞いはその他のマーケティング活動一般と何ら変わることはない。もっと言えば、人間同士の関わりの普遍的なありようそのものである」だと思っています。そういう意味では、この著書は『ツイッター繁盛論』というタイトルがつき、Twitter を使ったマーケティング活動のノウハウ集という体裁を取っていますが、小さなお店でなくても、飲食業でなくても、さらにはツールが Twitter でなくても、商売を「コミュニティ=顧客との信頼関係」をベースに成立させたい、と考える人であれば、誰にでもお勧めできる内容だと思います。

ということで、この著書を読んだちょうど直後のタイミングで、豚組 [しゃぶ庵]にお邪魔してきました。

@hitoshi さん

例によって @hitoshi さんがご挨拶に来てくださったので、私が買った著書に特製のはんこを押していただきました。相変わらず、この柔らかい笑顔が良いじゃないですか。

ちなみに今年に入ってから月に一度は豚組のどれかのお店に行っているという状態ですが、いつも大人数なこともあり、意外にも[しゃぶ庵]で個室を利用したのは今回が初めて。

豚組 [しゃぶ庵]

そして、オーナーから特製チャーシューとローストポークのサービス(いつもありがとうございます)。毎度のことながら、これがまたうまい。

豚組 [しゃぶ庵]

今回いただいたのは、現在口蹄疫で大変な苦労を強いられている宮崎県へのチャリティを含み、かつ現在入手困難な宮崎産豚を使った「宮崎応援特別コース」。少し赤みが残るくらいに軽くしゃぶしゃぶする程度のほうが柔らかくて美味。

豚組 [しゃぶ庵]

あと、しゃぶしゃぶじゃないけど気になった銘柄豚のメンチカツ食べ比べ。CoMOX とバスク豚という銘柄で、私の印象ではバスク豚は肉汁がジューシー、CoMOX は「肉の味が濃い」と感じましたが、どちらも美味。とんかつ 3cm 祭りのときもそうでしたが、こういうのは美味しいだけでなく、豚肉への知識も深まって、さらにお店のファンになってしまいます。

調子に乗ってボトルワインを入れたりしたら過去最高額の一人¥10,000 コースになってしまいましたが(汗)、それだけの価値はある時間を過ごさせていただきました。今後とも通わせていただきます。

投稿者 B : 23:59 | Book | Dinner | Gourmet | コメント (0) | トラックバック

2010/06/27 (Sun.)

ツァイス 激動の 100 年

アーミン・ヘルマン 著、中野 不二男 訳 / ツァイス 激動の 100 年

ツァイス 激動の 100 年

ツァイスファンなら読んでおかないと、というこの書物。それでも正直「重そう」なイメージが強かったのでここまで避けてきましたが、ふくいのりすけ氏の blog で紹介されていたので、改めて読んでみようと思い、手に取ってみました。とはいえ書籍はもう絶版になっているので、図書館で借りてきました。

カール・ツァイスとエルンスト・アッベによって設立された Carl Zeiss。その光学工場の設立から第二次世界大戦に伴う受難、東西ドイツの分割からベルリンの壁崩壊後の統一までの長い長い、それこそ激動の歴史を綴った書物です。と書いただけでも「重い内容」っぽいですが、冒頭がドイツ敗戦後の米軍のツァイス本社への進駐から始まるあたり、気合い入れないと読めません(笑。

この書物には残念ながらカメラ好きが期待するようなカメラの話はほとんど出てきませんが(Zeiss Ikon や Voigtländer、Tessar といった固有名詞は一応出てくるけど、それらについて深く解説されることはない)、逆に Carl Zeiss という企業がその長い歴史の中で、光学技術をもって科学や医学、工業や軍需産業といった産業に多大な貢献をしてきたことが述べられています。例えばコッホの結核菌の発見には Zeiss の顕微鏡が使われたことや、現代のプラネタリウムの原理は Zeiss が開発したものであること、という例を出すだけでも、Carl Zeiss という企業の偉大なる実績が分かることでしょう。
また、研究や製品だけでなく、現代企業の雇用制度の多くは Zeiss の創始者の一人であるエルンスト・アッベが長い時間をかけて作り上げた定款を参考にしており、雇用や厚生といった制度面でも社会の近代化に大きな影響を与えたのも事実です。

私が Zeiss というブランドに惹かれる最大の理由はそのレンズが描く画ですが、その背景にあるのはやはり企業全体として科学者や技術者に最大限の敬意を払っていることに、元いちエンジニアとして共感できるからではないでしょうか。かつての Zeiss の役員であるショーメルスの言葉にあるとおり、

「ずるがしこさではなく、徹底した正確さと信頼性、もういっぽうでは、商品の投げ売りではなく、安定した価格と、顧客に対する専門的アドバイスとサービス、そしていつも同じようにもうしぶんない応対」
を実直に実践しようとする姿勢そのものに、賛同できるからだと思います。
もちろん、この書物の中で書かれていることには多少の美化は含まれているでしょうし、最近ではコンデジだけでなくケータイや PC 用の Web カメラにも「Carl Zeiss」の名が入ったものが存在するように、分野においては名ばかりの存在になっている側面も否定はできません。が、訳者の中野不二男氏もあとがきで触れているように、日本の産業の直面する状況をも示唆しています。
この本に描かれているツァイスの姿は、そういう紆余曲折を経て成熟した技術立国になりつつある現在の日本の姿と、オーバーラップする部分があまりに多い。科学と、そして技術という、まさに名前だけの「無形の価値」で世界のトップを走りつづけてきたツァイスが、コンタックス製造の場を日本に移したように、日本の産業の海外移転が各分野ですすんでいるのもその一例だ。
今日のツァイスの姿は、もしかしたら明日の日本の工業界の姿なのかもしれない。しかし、かりにそうであるとするならば、日本には名前だけで残すことのできるものが、はたしてどれだけあるのだろうか。
この書物(日本語版)が出版されて 15 年もの歳月が経った今、それがより現実のものとして突きつけられています。単にカメラ好きがきっかけで読み始めた書物でしたが、日本の産業に携わるいち企業人として、価値のありようというものを深く考えさせられた一冊でした。

投稿者 B : 23:55 | Book | Camera Mook | コメント (0) | トラックバック

2010/06/10 (Thu.)

iPad VS. キンドル

西田 宗千佳 / iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏

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電子書籍のまさに「今」を切り取った書物。読みたいと思っていたけど業界動向系の本はすぐに陳腐化するし・・・と思っていたら図書館にあったので、借りて読んでみました。

内容はざっくりこんな感じ。

  • Kindle のビジネスモデル
  • Sony Reader および iPad との比較
  • 電子書籍がこれまで歩んできた歴史
  • 電子書籍のビジネスモデルについて、アメリカの事例を引用しながら整理
  • 日本の電子書籍/出版業界が置かれた現状と、今後の展望
『iPad VS. キンドル』といういかにもキャッチーなタイトルがつけられてはいますが、そんな表面的でうすっぺらい内容の本ではなくて、電子書籍の過去現在未来についてかなり多角的かつフラットに捉えた非常に良いテキストにまとまっています。

私も個人的に興味があって電子書籍関連の情報をそれなりに追いかけているので、もしかしたら知ってる内容ばかりかなというのを少し危惧していたのですが(実際ソーシャルメディア関連の書籍はそうやって買ってがっかりしたものが少なくない)、本書には私にとって新しい情報もけっこう充実していました。
電子書籍の歴史の話(アラン・ケイの Dynabook 構想から始まるとは恐れ入った)については過去の事例はほとんど網羅され、関係者にも直接取材を行っているほか、筆者とエンターブレインによるアンケート調査の結果、そして出版社側で始まっている動きに関する解説はなかなか他では読めない話。特に Web の情報に頼ると出版社側の動きの実態は正確には見えにくいので(出版社=既得権者=悪もしくは旧態保守という構図で表現されがち)、そのあたりまでしっかり取材して、機器やサービス提供側/出版社側/消費者側のいずれにも寄らずに客観的に示したという点では、非常に価値のある書物だと思います。

また、主題とは少しずれますが、「著作権は『銭金の問題』だ」とハッキリ書かれていることも重要だと思いました。著作権が単に金銭の問題かどうかは議論の余地があるとは思いますが、著作権が問題になる原因のほとんどは金銭。他業界で起きている「銭金と文化のすり替え」ではなく「収益の再分配」に主眼を置くことが、その業界がビジネスとして存続していくために必要なのだろうと思います。

本書に関しては筆者の主張がない、という批判もあるようですが、個人的にはこの書物は西田氏らしく客観的かつフラットに電子書籍の現状を分析したことに価値があり、そこから何を考えるかは読者に委ねられているのだと感じました。
ビジネスで関係する/しないに関わらず、電子書籍やコンテンツの電子化といった問題に興味がある人ならば一読して損はない良著だと思います。私も業界動向本ならお金を払うまでもないかなと思っていましたが、手元に置いて何度も参照する価値はあると思いました。この本こそ電子書籍で欲しいんですが、どうやら発売が遅延しているよう。電子書籍版が発売されたら、改めて購入したいと思います。

投稿者 B : 23:59 | Book | Business | eBook | コメント (0) | トラックバック

2010/05/19 (Wed.)

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

岩崎 夏海 / もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

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話題の著書、今さらではありますが私も読んでみました。

表紙のインパクトが強いですが、萌えライトノベルとかでは全然なくて、中身はとても硬派なビジネス書。そりゃドラッカーの『マネジメント』を題材にした著書なので、軟派になりようがないのですが(笑。

タイトルにあるとおり「もし高校野球の女子マネージャーが『マネジメント』を読んだら」という設定は単なるオヤジギャグですが(笑、リアルなビジネスに携わってる人じゃなく、普通ならマネジメントになんて縁のない若者がマネジメントに取り組んだら・・・という仮定なのが、逆に『マネジメント』の内容をデフォルメ化してこれだけ読みやすい(多少強引な設定もあるけど、それはそれ)内容にまとまっているんだろうな、と感じました。

本著で示されているのは『マネジメント』の中でも要点だけをさらっとなめたにすぎない内容だと思いますが、例えば企業活動は「顧客の要望を聞くところから始まる」「顧客の期待に応える」ことが最も重要ではあるけれど、でもそれは「言われたことをその通りにする」ではなく「本質的な欲求がどこにあるか」を見極めて、それに応えていくことが本質で、それを実現するための方法論が『マネジメント』には書かれているんだろう、ということがよく解りました。

この本のおかげで自分が今やっていることはきっと間違っていないという確信が持てたと同時に、これは改めてドラッカーを勉強してみる価値はあるなあ、と思ったのですが、一般論として書かれている(場合によっては単なる正論にしか聞こえないようなことを)自分の周囲に起きている具体的な事柄に当てはめて考えていくのってけっこう骨が折れるんですよね。私は転職したての頃、それでコトラーを途中でストップしてしまったので、今回も最後までいけるかどうか。とりあえず書店に行ってパラパラめくってみてこよう・・・。

投稿者 B : 01:00 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2010/05/07 (Fri.)

ずるい!? なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか

ここしばらくアウトプットするばかりだったので、ちょっといろいろなことを吸収したくなって、最近ひさびさにビジネス書を読んでいます。まずは Twitter で紹介いただいたこの本から。

青木 高夫 / ずるい!? なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか

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ホンダで海外営業を経験し、現在は渉外部で対政府関係の仕事もしている著者の経験に基づいた、主にビジネスの場での欧米と日本の「ルール」に対する考え方・取り組み方の違いに関して述べた本です。かいつまんで説明すると、日本人は「ルールはお上が決めるもので一般人は策定のプロセスに関与する必要はなく、一般人はそれを守るもの」という考えが刷り込まれているのに対して、欧米人は「ルールは策定する段階から参画するもの。場合によっては自分が有利になるようにルールを変更すべき」というマインドで、基本的には日本人ももっとルール作成プロセスへの関与を積極的にしていくべきだ、というお話。

ビジネスの場に限らず、例えばスポーツ界でもこういうことは日常茶飯事で、本書の中でも柔道の国際ルール変更の話や、1980 年代後半の F1 ターボ禁止ルール(当時はホンダエンジンの黄金期だった)など、「欧米は日本人が勝ち始めるとルールを歪めて欧米人に有利にする」という話はよく聞きます。最近ではフィギュアスケートの採点ルール変更が問題視されましたが、個人的には(フィギュアという「スポーツ」にとっての現行ルールには強く疑問を抱いているものの)とにかく金メダルを獲らせるために国を挙げて最大限のアプローチをした韓国と、選手に全て任せて何もしなかった日本・・・という対比を見るにつけ、やはり多くの日本人にとっての「スポーツ」って所詮その程度のものでしかないんだろうな、と少し絶望的な思いを抱いています。また、F1 からのホンダやトヨタの相次いだ撤退も、やはり「F1 の一員」としての自覚に欠けあくまで参加者にすぎず、ある面では F1 に体よくお金を奪われただけ、という見方もできます。
原理主義的に考えればそりゃスポーツに政治を持ち込むのはフェアではないのかもしれませんが、ある程度はそのスポーツに注目を集める活動(より観る側にとって面白くなるルール作りも含む)は必要で、そういうものも含めてそのスポーツの発展があるのも事実。まあ日本人は伝統的に「●道」というスポーツ、というより自己鍛錬のための競技が主流だったので、こういう考え方はそれこそ邪道と言われかねませんが。
でも、F1 で例えるならば、純粋にマシン+ドライバーの速さだけで予選も決勝もやったら今年の開幕戦のように全く面白くないレースばかりになるのも事実でしょうし、ある程度古くから F1 を観ている人にとっては「コース外での駆け引きまで含めて F1、むしろグランプリが始まるまでのプロセスが重要」というのも事実だと思います。

さておき、個人的には最近「ビジネスのルールを変える」ことをよく考えているのですが、私はこういう本当の意味での「ルールや法律」を変えることを考えているというよりは、むしろイノベーションによって生活や市場にパラダイムシフトを起こすという意味での「ルール変更」のほうに興味を持っています。例えば、音楽と言えば家で聴くものだった時代に「外で歩きながら音楽を聴く」という文化を創ったり、紙媒体やパッケージメディアを電子媒体化することで流通だけでなく言論やコミュニケーションのあり方を変える、といったような。それによって経済の構図が変わる=ルールが変わる、ということを考えています。既存のルールの中で最大限に勝率を上げるためのアプローチも重要ですが、そういうのを考えるのが得意な人は他にいくらでもいるので。

そういう意味では、本書は私が求めていた内容とはちょっと方向性が違ったのですが、それでも今まであまり持っていなかった観点が身についたり、ちょっとした発見がいろいろ得られたり、読んだ価値はありました。私はあまり政府や業界団体に関係する仕事をしていませんが、それでも例えば「自分がやりたい仕事をするために、社内の業務プロセスやルールを変えることを考える」ということに対して少し前向きになれたり、とか。

平易な文章で書かれていて比較的短時間でも読みやすい本なので、興味があれば一読をおすすめします。

投稿者 B : 01:38 | Book | Business | コメント (1) | トラックバック

2010/03/11 (Thu.)

Sony Chronicle 2010

だいぶ前に注文していたものが届きました。

Sony Chronicle 2010

Sony Chronicle 2010

この手のムック本は初代と 2006、そして去年の Walkman Chronicle を合わせて 4 冊目。私も毎回律儀に買うわと我ながら思いつつ(´д`)。あ、2006 はプレゼントだったか・・・。

さすがに初版は 2002 年、8 年も経過するとそれだけ掲載製品が増えるわけで、

Sony Chronicle 2010

もう VAIO X より厚いんですけど(笑。

Sony Chronicle 2010

この長い歴史の中で直近の 15 年ほどは間違いなく私の人生とオーバーラップしているので、製品の一つ一つにいろんな思い出が。

私も胸を張って経歴語れるような人物にならないとなー・・・・・・。

投稿者 B : 02:11 | Book | コメント (0) | トラックバック