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2015/09/02 (Wed.)

オールドレンズ・ライフ Vol.5

澤村 徹 / オールドレンズ・ライフ Vol.5

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前作からちょうど一年、澤村 徹さんのムック『オールドレンズ・ライフ』の最新刊が発売されたので、さっそく購入。このシリーズも気がつけばもう 5 冊目ですが、未だとどまるところを知らない勢いを感じます。

Vol.4 の時点で α7 シリーズによる「35mm 判レンズ本来の画角での撮影」および縮小光学系マウントアダプタによる「APS-C ボディでの擬似 35mm 判画角での撮影」が可能になっており、オールドレンズ本としては一旦行き着くところまで行った感がありました。オールドレンズって毎年新製品が出てくるものでもないし(笑)、さすがにそろそろネタが枯渇してきたのでは、と思っていたら、今回の主なトピックは

  • 旧東独・ロシアレンズ特集
  • 中判オールドレンズ特集
  • 現行 MF レンズ特集
  • まだまだ出てくる新型マウントアダプタ
という、かなり上級者路線を攻めてきました。

オールドレンズの入り口といえば旭光学やオリンパスの旧ズイコー、あるいはヤシカ/コンタックス用ツァイスレンズあたりが定番ですが、ツァイス・イエナを中心とした旧東ドイツレンズや安価なツァイスコピー品であるロシアレンズ側にも、広く深い沼が広がっています。特にイエナ製レンズはオールドレンズとは思えない安定した描写を誇っており、ツァイスにしては安価なこともあって入門用として比較的手を出しやすいのも事実。私もイエナ製の MC Sonnar 135/3.5 は一本持っていたりします。
とはいえ入手性がも情報も限られているこのあたりのレンズにいきなり手を出す初心者もいないでしょう。この『オールドレンズ・ライフ』シリーズは初心者をあまり考慮せずにいきなり沼の深いところから始まることが多いですが(笑)、それでも今回のは今までよりもさらに深淵からスタートしている、と言えます。私もさすがに、中判オールドレンズに手を出す予定は今のところないかな(笑。

個人的注目はやはり現行 MF レンズ特集。少し前までは新品で買える MF レンズといえばライカかコシナ製ツァイス/フォクトレンダーくらいしか選択肢がありませんでしたが、オールドレンズブームのもとで新規に MF レンズを発売するメーカーが複数現れてきました。中でも、今回のムックは富岡光学(ヤシカ/コンタックス用ツァイスレンズを OEM 生産していたメーカー)の Tominon 55mm F1.2 の復刻版にあたる木下光学「Kistar 55mm F1.2」、そしてマウントアダプタメーカーとして有名な Hawk's Factory が Tsubasa ブランドで開発したレンズ第一弾「Swallow 35mm F2」の発表の場を兼ねています。それほど重要な媒体になったと考えると、初期の頃から応援してきたファンとしても嬉しい限り。
一口に現行 MF レンズと言っても、過去の名玉の描写を再現することにこだわったものから既存レンズにないスペックを目指したもの、そして MF でありながら現代的な高解像度を実現しようとしたものまでバラエティに富んでいます。オールドレンズはアジア方面の需要増で年々値上がり傾向にありますが、現行 MF レンズであれば価格が安定しており入手しやすいという利点もあり。いきなりオールドレンズ、ではなくまずは現行 MF レンズから始める、という選択肢もあると言えます。

個人的にはやっぱり東独かなあ。イエナの Flektogon 20/4、35/2.4 は以前から手に入れたいレンズではありました。最近、AF でラクをしてばかりだったけど、AF レンズはめぼしいところはだいたい揃えてしまったので、改めてオールドレンズ収集に走りたくなってきました。

投稿者 B : 21:55 | Book | Camera Mook | コメント (0) | トラックバック

2015/07/27 (Mon.)

猫は忘れない

東 直己 / 猫は忘れない

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二年前から読み進めていた、東直己「ススキノ探偵シリーズ」の最新巻を読了。

「俺」の学生時代を描いた前作『半端者』から打って変わって、時間軸は『旧友は春に帰る』の続き。「俺」は順当に齢を重ねて五十代半ばにさしかかっています。
いつもの仕事と同じように、知人の水商売のママが旅行中に飼い猫の世話をすることになった「俺」。飼い主の不在中に餌を与えるためにマンションに入ったところ、当の飼い主の刺殺体を発見してしまい...という、いつもとはちょっと違うところから物語は始まります。いつもススキノでグダグダしているところから始まっているので読み進めるのに時間がかかりますが、今回は最初から引き込まれた感じ。

ただ、怪しい人物は序盤にいかにもという形で登場し(しかし「俺」はそれを怪しいとは思わない)、結局その人物が犯人だった...という点で、ミステリー的にはあまり驚くような話ではありません。「俺」も歳を取ってアクション的な動きも減っているし、酒を飲むよりも飲まれるような場面は増えたし、ホームズやポワロのような推理能力でもなければ、そろそろ肉体派探偵としてやっていくのは限界じゃないですかね。このシリーズ、全般的に「俺」が主体的に事件を解決する話は少なく、むしろ「俺」が入り込むことで状況が引っかき回され、真相のほうから勝手に「俺」のところにやってくる、というスタイルが多い。今回も最終的にはそういうオチで、「俺」が謎を解く場面が今まで以上に少なくなっています。
でも、このシリーズ自体がそういうものだ、と考えると、逆に事件や推理は物語に彩りを添える要素にすぎず、「俺」とその関係者たちがススキノ周辺で生きる様子そのものを楽しむことが本質なのだということに気づけば、そういう視点で楽しめるようにも思います。このシリーズにここまで付き合ってきた読者であれば、既にそういう読み方になっているのかもしれませんが(笑。

そういえばこの作品は映画『探偵は BAR にいる』の公開後に刊行された今のところ唯一の作品ということになりますが、この物語に登場する猫のナナについ話しかけては「だからそういうのやめろって」と独りツッコミを入れる様子が、劇場版で「俺」を演じる大泉洋の姿と重なって見えました。小説版の「俺」は大泉洋とは似ても似つかぬ太った中年ですが、キャラクター的にはちょっと当て書きが入りつつあるのかな、という気がします。

長らく付き合ってきた「ススキノ探偵シリーズ」も、刊行されている分はとりあえずこれで終了。続編は番外編として JT が展開する Web 媒体「ちょっと一服ノベルズ」で一時期展開されていたようですが、その先は不明。そろそろ探偵業も限界だろうけど、製作中と言われている映画第三弾の公開に合わせて動きがあるんでしょうか。とりあえず番外編を読みながら、続報を待ちたいと思います。

投稿者 B : 23:28 | Book | Novel | コメント (0) | トラックバック

2015/06/28 (Sun.)

半端者 -はんぱもん-

東 直己 / 半端者 -はんぱもん-

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「ススキノ探偵シリーズ」の続編をひさびさに読了しました。続編といっても前作の続きではなく、シリーズ第一作『探偵はバーにいる』よりもさらに遡って、主人公「俺」がまだ北大の学生だったころのお話。あとがきによると、映画『探偵は BAR にいる』の制作を記念して書かれた物語とのことです。

このシリーズは序盤がダラダラすることが少なくなく、主人公が学生であるせいか、この物語はそのあたりが余計に強調されていたような気がします。読者としてはそのせいで序盤の進みが悪く、なかなか読み進めるモチベーションが保てずに、ちょっと時間がかかってしまいました。が、話が動き始めてからはページをめくる手(といっても電子版だけど)が止まらなかったのは、このシリーズならではと言えます。

学生時代の物語、というと派生するシリーズに登場した松井省吾君のことを思い出しますが、彼とは似ているようでいてまたずいぶんと違う。ススキノでそれなりに飲み慣れていながらも、その道に生きる人々との付き合い方はまだ知らない。その割に正義感だけは強くて妙なトラブルに首を突っ込んでばかりいる...というのはその後の作品にも通ずるところですが、そのアプローチが未熟なあたりが、タイトルの『半端者』たる所以。後のストーリーに登場する重要人物との出会いについてもいろいろと描かれており、ここまで読んできた人であれば感慨深いものを感じることでしょう。特に、後のすべてのシリーズに登場する高田や○○についてのくだりは、ファンならば読みたかった話ではないでしょうか。

「俺」がススキノで発生するいくつかの事件に首を突っ込みながらも、最終的にそれを解決するのは多くが「俺」以外の誰か、という点では後続する時間軸のストーリーと一致しています。あくまで首を突っ込んで引っかき回すまでが役割で、それをきっかけに事態が半自動的に進んでいく...というのがこのシリーズの持ち味ですが、そのルーツとして意識的に描かれた物語、という印象。でも、凄腕の探偵が推理によって難事件をどんどん解決していくよりも、こちらのほうがリアリティがあるとも感じます。
ミステリー的には、作中で発生したあれこれの事件が一つの結末に収斂していくことを想像しながら読み進めていましたが、その結末はけっこう散漫な、それぞれの話として終わった感じ。結末としてはちょっと物足りなかったものの、学生時代に起きたことって何でもけっこうこんな感じだったかもな、と思うと、妙に納得してしまうものがありました。そういう意味では、この作品は話の結末そのものよりも、「俺」の行動規範を改めて確認するための物語だった、と言えるのかも。

このシリーズも、刊行済みの作品では残すところあと一つとなってしまいました。映画は続編が作られているらしいので、小説版も映画の新作のタイミングで続きが出てくる可能性はありますが、ひとまずは残り一作。すっかりおっさんになった「俺」の物語を、続けて読んで行こうと思います。

投稿者 B : 21:56 | Book | Novel | コメント (0) | トラックバック

2015/06/10 (Wed.)

Sony Design: Making Modern

先日行ってきた「MAKING MODERN ~原型づくりへの挑戦~」に触発されて、この写真集を購入しました。

Sony Design: Making Modern

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展示会場であるソニービルでも販売されていたんですが、配送期間が多少かかっても良ければ海外から買った方が安かったので、Amazon マーケットプレイスのイギリスの出品者から購入。2 週間ほどかかったけど、まあいいです。

Sony Design: Making Modern

現物は想像していたよりもずっと分厚く、ハードカバーであることも手伝ってずっしりとした重さ。もしこれで人を殴ったら「鈍器のようなもの」と報道されるに違いない(ぉ。高価だけど、価格に見合う内容の厚さです。

Sony Design: Making Modern

基本的には写真集だけれど、前半には少しだけソニー黎明期のエピソードが解説されています。ただ、洋書なので記載はすべて英語。でもファンならばこれくらいの英語、愛を以て読みこなせるはずだ(ぉ

Sony Design: Making Modern

さらにはソニーの前身となる東京通信工業の設立にまつわるエピソード(日本橋・白木屋の一角に最初の事務所を構えた話)が漫画(台詞は英語)で収められています。しかも、どこかで見たことのある絵柄だと思ったら、『ゴルゴ 13』のさいとう・たかを先生じゃないですか(;´Д`)ヾ。
調べてみたところ、これオリジナルは日本で『劇画 MADE IN JAPAN』として出版されていたもののようですね。これはさすがに知らんかった...。

Sony Design: Making Modern

本編は歴代の、デザインが特徴的な製品の写真がどどん、と掲載されています。洋書ながら、本編は基本的に写真がメインなので、英語が分からなくても堪能できます。

Sony Design: Making Modern

大半のページを製品写真が占めていて、ソニービルのイベントで展示されていたのはあくまで氷山の一角にすぎなかったんだなあ、ということがよく分かります。個人的に「あれが展示されてないなんて寂しい...」と思っていたものも、書籍版には多くが収録されていて、満足。自分の琴線に触れて実際に買ってしまった製品も数多く載っていて、時代のマイルストーンになる製品はデザインがうまくそれを表現し、象徴の役割を果たしていたのだろうと思います。

Sony Design: Making Modern

基本的に 1 製品に対して 1~2 枚、俯瞰のカットが載っているだけ、というのが多いですが、いくつかの製品ではディテールに大きくクローズアップして撮られた写真も掲載されています。細部の積み上げだけで良い製品は作れないと思うけど、良い製品は細部に至るまで手を抜いていない、というのは真だと思います。

Sony Design: Making Modern

歴史を変え、時代に残る製品のデザインというのはシンプルな幾何学図形の組み合わせでできていることが多い、というのが私の持論です。たとえば iPod は子どもでも描ける円と四角だけで構成されています。工業デザインにおいては、そういうアイコン的な役割も非常に重要。Apple に代表されるように、近年の工業製品のデザインは、そのことを意図的にデザインに反映して成功している例が多いように思います。

私も工業デザインとか空力デザインとかをやりたくて大学に入ったはずだったんだけどなあ。こういうのを見ると、あそこで諦めずにちゃんと勉強をしていれば良かったなあ、とちょっとだけ思います。

投稿者 B : 23:45 | Book | コメント (0) | トラックバック

2015/03/23 (Mon.)

漫画版 野武士のグルメ 2nd

久住 昌之、土山 しげる / 漫画版 野武士のグルメ 2nd

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1 巻が発売されてからちょうど 1 年。早くも『漫画版 野武士のグルメ』の単行本第 2 巻が発売されました。元祖『孤独のグルメ』だって 1 巻の発売から 28 年経ってようやく 2 巻が発売されようとしている(まだ出てない)というのに(;´Д`)。
1 巻は『孤独のグルメ』ほどの派手さはないながらもけっこう好きな作風だったので、2 巻も買ってみました。電子版がまだ出ていないようなので、紙版を...電子版は後追いで 1 巻が発売されているようですが、もともと Web 掲載のコミックなんだから、電子版も同時刊行にしてくれませんかね。

この漫画は定年後のおじさんが悠々自適な「野武士的」食生活を送る B 級グルメ漫画。『孤独のグルメ』の井之頭五郎もたいがいフリーダムな毎日を送っているように見えますが、本作の主人公「香住武」も輪をかけて自由。なんたって仕事がないわけですから、朝寝坊・昼酒・夜更かしやりたい放題、1 巻よりもさらに過激になってすらいます。出かけたついでに一杯引っかけるのは当たり前、缶入りトマトスープが不味かったといっては思いつきでカレーを作り始めるわ、深夜に目が覚めたといっては寝酒のつもりで飲み始めたビールから日本酒へ夜更けの深酒コースに突入するわ、もう展開が読めない(笑。

漫画版 野武士のグルメ 2nd

1 巻に引き続いての、酒を飲み下した直後のこの表情ですよ。『孤独のグルメ』ではついぞお目にかかれなかった、酒飲みであればこれを見ただけで自分も飲みたくなってきてしまう顔。飲んだ後に手の甲で口を拭う仕草が完全におっさんです(笑。

漫画版 野武士のグルメ 2nd

料理の描写のリアリティは谷口ジロー先生に勝るとも劣らないうまそうさ。焼きたての新サンマに箸を入れる瞬間を「プシュ」という擬音つきで表現した漫画が今までにあっただろうか(ぉ

これは深夜に読んだらアカン漫画です。

漫画版 野武士のグルメ 2nd

なにげにこの台詞、すごい名言だと思います。ドラマ版の井之頭五郎がモノローグで言いそうな台詞でもある。まさに、久住節。

『孤独のグルメ』よりはもうちょっと日常寄りなので聖地巡礼的な楽しみはあまりありませんが、逆に冷蔵庫にある食材でちょちょっと飲みたくなってしまう危険性を孕んでいます(笑。
そういえば、この作品ではあまり「どこどこの店」というのが特定できないような書き方をされていることが多いですが、唯一見つけたのが銀座すずらん通りの「そば所 よし田」。銀座で蕎麦といえば田中屋には行ったことがあるけど、今度はこっちの店に行ってみようか...と思ったら、現在休業中または閉店してしまったらしいですね(´д`)。これは残念だ...。

投稿者 B : 23:57 | Book | Comic | コメント (0) | トラックバック

2015/02/26 (Thu.)

愛蔵版 機動戦士ガンダム THE ORIGIN 特別編

安彦 良和 / 機動戦士ガンダム THE ORIGIN (24) 特別編

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アニメ ep1 の一般公開を目前に控え、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の最新刊が発売されました。とはいっても既に完結している作品なので、この 24 巻は「特別編」という位置づけ。過去に発表済みの前日譚、後日譚の詰め合わせになっています。

収録されているエピソードは「その前夜」「キャスバル 0057」「アルテイシア 0083」「アムロ 0082」の 4 本。「その前夜」は角川から関連書籍として発売された公式ガイドブックで初出(余談だけどこの公式ガイドブックだけで 3 巻も発売した角川はいくらなんでも悪どいと思う)かつ愛蔵版 VII にも収録されているもので、それ以外の三つは愛蔵版 XII で既に収録済み。初出なのは表紙イラストとカバー折り返しの作者コメント、あとちょびっと掲載されている安彦先生へのインタビューくらい?つまりは B6 判コミックスとして初収録となるだけで、愛蔵版を全巻揃えている人はあえて買う必要はありません。まあ、私は B6 判も愛蔵版も全部揃えたけどな(ぉ

という感じで相変わらず商売としては悪どいわけですが(安彦先生自身もコミック等の作者コメントイラストで編集部に対する不平は繰り返し述べています)、作品の内容は良いんですよね。サイド 7 でジーン兵長が戦功を焦り、シャアが「若さ故の過ち」を悔いるに至った経緯を描く「その前夜」。キャスバル・レム・ダイクン生誕の日を描く、どこか神話めいた雰囲気すら感じる「キャスバル 0057」。セイラのその後の人生をカイ・シデンの目線で描いた「アルテイシア 0083」。そしてちょっと異色な「アムロ 0082」。
アニメ版でルウム戦役以前のムンゾ自治共和国の映像を観た後に改めて「キャスバル 0057」を読むと、なかなか感慨深いものがあります。この中に登場する、誰得なキシリアのランドセル姿は必見と言えるでしょう(笑。ただ、「アムロ 0082」はちょっと賛否両論かもしれません。まあこれはスピンアウト作品というよりは、安彦先生自身による二次創作、と捉えたほうが良いでしょうが...。

『青い瞳のキャスバル』の一般公開まであと 1 日と少し。プレミア上映会で一度観てはいますが、改めて楽しみになってきました。

投稿者 B : 22:00 | Book | Comic | コメント (0) | トラックバック

2015/02/03 (Tue.)

旧友は春に帰る

東 直己 / 旧友は春に帰る

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探偵、暁に走る』を読んだら気持ちが乗ってきたので、続編を勢い任せで一気に読み終えました。

今回のタイトルはシリーズの中でも特に情緒的な響きをもっています。この「旧友」というのが、なんとシリーズ第 1 作『探偵はバーにいる』でヒロイン役に位置づけられていたコールガール、通称モンロー。『バーにいる』のラストでススキノから逃げ出し、沖縄に渡った彼女が、四半世紀ぶりにススキノに戻ってきます。
しかしすっかりオジサン・オバサンになった二人がススキノで旧交を温めるしんみりした話、になるわけもなく。過去にも「俺」を引っかき回したモンローでしたが、今回も完全にモンローのペース。カーチェイスあり、海を渡る逃避行あり、今までは事件を追う側だった「俺」が暴力団に追われる側になるという展開もなかなか目新しく、手に汗握るストーリーに引き込まれました。

「俺」といえば一貫してケータイを持ち歩かないキャラとして描かれていますが、今回もそのポリシーは健在。しかしケータイメール全盛(この作品が書かれた頃はまだ SNS は一般化していなかった)の現代において、ケータイを持たずに時々刻々と変化する状況に対応する探偵を描くのはリアリティがないという判断か、定期的にネットカフェに行って PC で Web メールをチェックするようになっています。これはこれで、以前に比べればタイムリーな情報交換ができていつつも少しタイムラグがある、という状況を作り出していて、なかなか面白い。そしてメールチェックの合間に YouTube で動画を見たり、その数分間の間に二桁を超えるスパムメールが届いていたりする半端な現代っぽさが面白い(笑。

「俺」は最後まで振り回されっぱなしで結局何かを解決できたわけではない、という割り切れない結末でしたが、そういうのも含めて感傷的になれる物語でした。過去作に登場した主要キャラが多数登場することもあり、シリーズここまでの集大成と言える作品だと思います。面白かった。

投稿者 B : 22:09 | Book | Novel | コメント (0) | トラックバック

2015/01/23 (Fri.)

探偵、暁に走る

東 直己 / 探偵、暁に走る

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ちょっと間が開いてしまいましたが、「ススキノ探偵シリーズ」の続編を読了。

本作では「俺」はついに五十代に突入し、そろそろおっさんというよりも初老と言えそうなほどに老けてきました。時代もすっかり現代で、スマホこそないもののケータイは当たり前(「俺」は意地でも使わないけど)、さらに「俺」は PC さえ普通に活用しています。

今回のお話は、地下鉄の中でたまたま知り合うことになったイラストレーター・近藤雅章と意気投合した...かと思ったらその近藤が何者かに殺されてしまい、「俺」はその犯人を捜し始める、というもの。この近藤がまた独特なキャラクターで、『ライト・グッドバイ』の犯人とはまた違った種類の曲者なわけですが、なぜか「俺」は近藤に妙に肩入れしてしまいます。まあ、この近藤が今の世の中をいろいろと疑問に思い、気に入らない相手に対しては暴言を吐いたり暴力さえ振るったりするキャラクターなのに対して、前作くらいまでは世の中の変わりように対してボヤいてばかりいた「俺」がきっぱりそういうことを言わなくなったのは、おそらく東直己氏が自身のキャラクターの投映先を「俺」から近藤に移し替えたからだろうな、と思います。それくらい、不自然なほどに「俺」は近藤に入れ込んでいきます。

いつもの如く、物語の序盤はまったりとした展開。あまりに冗長でなかなか読み進まないわけですが(笑)、中盤からは怒濤の勢いで一気に読ませる作風は、東直己の持ち味でしょう。そして、今作はこれまで以上に脇役が立っています。相棒の(といってもこの頃になるとあまり活躍しませんが)高田、新聞記者の松尾、暴力団の桐原組長と相田、高田に替わってアクションを担当するようになったアンジェラ、新しい恋人役の華、「俺」を真面目に手助けする石垣など、それぞれの人間くささが今までの同シリーズよりも深く出ているのが印象深い。特に相田が病気でほぼ全身不随になりながらも最も重要なシーンで活躍するくだりは、映画版の松重豊さん演じる相田の顔を思い浮かべると余計にグッと来るものがあります。

個人的には、「俺」が気に入らないことに対してごちゃごちゃ言ってばかりいる「昔は良かったおじさん」から「友人の苦境を見過ごせない正義漢」に戻ってきてくれたことが嬉しいかな。やっぱり「ススキノ探偵シリーズ」はこうでないと。シリーズの残りも 3 冊ほどになりましたが、春くらいまでかけて読み切りたいと思います。

投稿者 B : 23:59 | Book | Novel | コメント (0) | トラックバック

2015/01/16 (Fri.)

MOT ―テクノロジーマネジメント

グローバルタスクフォース / 通勤大学 MBA 〈11〉 MOT ―テクノロジーマネジメント

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「スマートフォンはあらゆる電気製品の価値を吸収した」と最近よく言われます。実際、スマートフォンとその先に繋がっているクラウドサービスが既存のハードウェアを代替し、スマホ一台あればかなりのことができる世の中になったことは事実でしょう。でも、IT やエレクトロニクスに携わっている人の多くが「もっと便利に、もっと効率的に、もっと楽しく」を目指していろんな価値をスマートフォンに集積していった結果、確かに便利で効率良くはなったけれどもなんだかつまらない、という状況に息苦しさを感じているのもまた事実だと思います。
一昔前だったら PC やモバイル機器に入れ込んでいた私やその周囲の人々が最近ではカメラと写真に熱を入れるようになったのも、おそらくそれがまだ物理的制約に囚われて電子化しきれない、昔ながらのハードウェアの愉しみがまだ残されているから、という側面があるのではないでしょうか。

「良いものを作りさえすれば売れた」時代はとうに過ぎ去り、技術とビジネスモデルを組み合わせてようやくモノが売れる時代。日本の製造業の凋落が叫ばれていますが、それは決して技術力が衰えたわけではなく、時代の変化に合わせたビジネスモデルを創造することと、それを推進できる経営がなされてこなかったことが原因でしょう。
ビジネスモデル創造について学んだら、次は技術を正しく活かす経営について学びたくなったので、この書物を手に取って(電子版だけど)みました。

この本は、MBA で学ぶような内容を通勤中に学んでしまおうというコンセプトで作られたシリーズのようです。これで MBA 相当の知識がついたらこんなにオイシイ話はないわけですが(笑)、概要を体系的に理解したい人にとってはちょうど良くまとめられた内容になっています。製品開発プロセスから技術戦略、R&D、知財、他社とのアライアンスや生産管理・資材調達まで、企業の開発・生産活動全般にわたってまとめられています。まあ 10 年以上前の書物なので、あくまで技術的優位性を軸にした製造業の話に終始しているのはちょっと物足りませんが、それでも現在も製造業が日本の主力産業であることは間違いないわけで、今でも十分通用する考え方だと言えます。
私自身も、今までに部分的にはいくつか関わったことがあったり知っているものはあっても、こうやって全体を俯瞰して見ることはなかったので、頭の中が整理される内容でした。

ただ、それほどページ数が多いわけでもないので、どの話も基本的にフレームワークの説明に留まっていて、具体例に乏しい=実感としての理解にはちょっと物足りないと感じました。このあたりは実際の MBA であればケーススタディやロールプレイ等を通じて腹落ちしていくところだと思うので、そのへんは独学の限界かもしれません。
あと、全体に書き方が教科書的すぎて、読んでいて眠くなるのは困りましたね(笑。

あとは自分で実地での経験をふまえ、いかに技術を活用して市場に受け容れられるビジネスモデルに結びつけるか、が勝負ですね。がんばらないと。

投稿者 B : 23:33 | Book | Business | コメント (0) | トラックバック

2014/11/28 (Fri.)

後ろ傷

東 直己 / 後ろ傷

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ススキノ・ハーフボイルド』の続編にあたる、東直己のミステリー小説を読んでみました。これまた電子書籍が発売されていないので、図書館で...。やはり旧作は大ヒット作かメジャーなシリーズもの以外はなかなか電子化の手をつけてもらえないのが残念なところ。

時間軸は道警腐敗事件の翌年。『駆けてきた少女』『ススキノ・ハーフボイルド』に続いて 3 作目の登場となる松井省吾君は、本作では大学生になっています。が...、以前の作品では「北大合格確実」という話だったのが、どういうわけか受験に失敗してしまい、唯一滑り止めとして受けていた道央学院国際グローバル大学(通称:グロ大)に進学します。まあ、受験に最も重要な高三の夏休みにああいう事件に首を突っ込んでいてはそれもむべなるかな、という気はします。しかもグロ大は『駆けてきた少女』に登場するある事件の犯人であり被害者が通っていた、札付きの底辺大学。恋人だったホステスの麻亜とも別れています。もともと自信家で世の中を斜めに見ていた松井少年は、このことで完全にひねくれてしまい、物語の中盤までは自虐的な台詞やグダグダした行動が目につきます。中盤までに幾度となく登場する「グロダッチ(=グローバル大学の友達)」という言葉も、妙に哀愁を誘う響きで何とも言えません(笑。
個人的には、こういう生活環境が大きく変わる十代後半~二十代前半に自分の価値観を覆すような事件が起きるとしばらく自棄になって立ち直れなくなる心境は分からなくもないです。大人になった今では、逆にそうやって時間を浪費している若者の姿がもどかしくもあります。

そういう意味では、世間知らずで腕っぷしも弱いくせに正義感だけは強い松井少年の「ハーフボイルド」っぷりに、さらに磨きがかかった作品と言えるでしょう。

ただ、松井少年が『ススキノ・ハーフボイルド』と違うのは、今回は事件の渦中にいる、ということ。前作では完全に巻き込まれ、振り回される形で事件が進んでいき、結局最後まで事件の中心に立つことがありませんでしたが、今回はもろに事件の中心人物になります。この事件を通じて松井少年が自分の価値観を再認識し、進むべき道を取り戻していくのがこの物語のハイライトではないでしょうか。
ただ、事件の解決にはあの「俺」が「便利屋さん」という立場で深く絡み、なんだかんだで事件を解決したのは「俺」の立ち回りによるものだったりします。その点では結局この作品も「ススキノ探偵シリーズ」を視点を変えて描いたもの、ということになります。

この事件のあと、松井少年はどういう人生を歩んだのでしょうか。続編は書かれていないので想像するしかありませんが、結局グロ大をやめて浪人し、北大に進んだのではないかと思います。もしかすると、加齢で動きの重くなった「俺」の後を継いでススキノの便利屋稼業を始めているのかもしれません。

投稿者 B : 23:15 | Book | Novel | コメント (0) | トラックバック