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2019/03/18 (Mon.)

運び屋 @T・ジョイ PRINCE 品川

『グラン・トリノ』以来約十年ぶりとなるクリント・イーストウッドの監督兼主演作品を観てきました。

運び屋

運び屋

監督としては毎年のように新作を発表し続けている一方で、一度は『グラン・トリノ』で俳優引退宣言をしたイーストウッド、『人生の特等席』以来二度目の俳優復帰(笑。

本作は五年前に新聞記事となった実際の事件をもとにしたフィクションです。90 歳の老人がメキシコの麻薬カルテルの運び屋として働いていた、という話。来年には 90 歳を迎えるイーストウッド自身がこの悲しい運び屋を演じています。

退役軍人であり、除隊後は園芸家として働いていたアール・ストーンは、家庭を顧みずに仕事に打ち込むあまり妻や娘と事実上の絶縁状態にあり、彼に心を開いていたのは唯一孫娘だけ。かつては仕事で成功していたアールも、時代の変化に伴って仕事が立ち行かなくなり、生活に困窮し始めます。しかし孫娘の結婚資金を出してやりたいという一心で始めた「運び屋」稼業が思いのほかうまくいき、金を稼ぐことで失った家族や仲間との関係を取り戻せる...と考えてどんどん深みにはまっていきます。そのうち自分がしている仕事のヤバさに気がついてももう後戻りはできない。最後に改めて「仕事か家庭か」の二択を迫られたときに、彼が選んだのは...というお話です。

というあらすじだけ書くとサスペンスっぽい印象を受けますが、上映時間の半分は「頑固じじいがマイペースに運び屋の仕事をやって、それにマフィアが振り回される話」。当初は予定通りに荷を運ばなかったら殺すと凄むようなチンピラやマフィアのボスも、いろいろ寄り道しながらもうまく警察を巻き、しっかり仕事を全うするアールにみんなほだされていきます(笑。シリアスな話のはずなのにどこかコミカルな描き方は先日観た『グリーンブック』に通ずるものがあって妙に和む。イーストウッド映画といえば重いテーマの作品が多くて元気がないと観れないものですが、これは肩肘張る必要のない、むしろ癒やし映画かもしれません。荷台に億単位の麻薬を載せて鼻歌交じりに走って行くイーストウッドがやけにかわいい(笑。

とはいえ「頑固で家族との距離の取り方が分からない不器用で孤独な老人」というキャラクターは、近年のイーストウッド主演作品に共通するもの。観れば観るほど、これは 90 歳の運び屋の話ではなくイーストウッド自身の家族に対する贖罪の物語なのではないだろうか?と思えてきます。本当に最近のイーストウッドは監督作では史実ものばかりだし、主演作は自身を投影したかのような役どころばかり。で、本作は監督兼主演だから(以下略。でも自分にも微妙に心当たりがあるように取り戻せない家族との時間をカネやモノで埋めようとしてしまうのは、彼に限らず働く男の悲しい性なのでしょう。
ラストシーンは必ずしもハッピーエンドではなかったかもしれませんが、アールの満足げな表情を見る限り、彼にとっては最後に家族との心の距離を埋めることができたことは幸せだったに違いない。

個人的にはイーストウッドがどことなく亡くなった祖父を思い出させるというのを以前書いた気がしますが(まああんなにカッコ良くないけど)、シャレや皮肉好きで、麦わら帽子で畑仕事に勤しむ姿やキャップと作業着みたいなブルゾンを纏ってトラックを乗り回す姿が生前の祖父と完全に同じで、スクリーンを見つめながら何度か涙がこぼれてきてしまいました(笑。妻子との距離感や孫を喜ばせるのに必死になる姿が本当に一緒なんだよなあ。

クリント・イーストウッドの監督作も主演作も、毎回「これが見納めになるかもしれない」と思いながら映画館に足を運んでいるわけですが、こんな「人生の最後に、何をもって幸せだったと言えるか」というテーマの作品を見せられると、本当にこれが遺作になってもおかしくないと思ってしまいます。でもこれからも一年でも長く元気に過ごして、また映画を作り続けてほしい。なんか勝手に孫目線で応援してしまっている自分がいます(笑。

投稿者 B : 22:28 | Foreign Movie | Movie | コメント (0) | トラックバック

2019/03/15 (Fri.)

フロントランナー

先日の出張の機内ではもう一本映画を観ていました。

フロントランナー

『レ・ミゼラブル』『グレイテスト・ショーマン』と当たり続きのヒュー・ジャックマン主演映画とくれば気になるじゃないですか。しかし前二作と違い今回はミュージカル映画ではなく、史実を元にした政治スキャンダルもの。1988 年のアメリカ大統領選挙において、予備選をリードしていた民主党のゲイリー・ハートの物語です。
私は当時まだ小学生で、選挙についてもよく知らない間に大統領がレーガンからブッシュ(・シニア)に交代していたくらいなので、ゲイリー・ハートについてはよく知りません。もっと言えば物心ついたときにはレーガンが大統領で、彼がかつて俳優だったという事実も『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観て初めて知ったほどです(笑。でも私の世代的なものを抜きにしても、ゲイリー・ハートという人物は日本ではよく知られていないのではないでしょうか?少なくとも今日時点で日本語版 Wikipedia にはページが存在しませんでした。

「ジョン・F・ケネディの再来」と言われるほど高いカリスマ性を発揮し、選挙戦序盤をフロントランナー(最有力候補)としてひた走るゲイリー。しかしプレイボーイとしても知られていた彼は、選挙戦中に新聞に不倫スキャンダルをすっぱ抜かれる。政策とプライベートは関係ないとして引き続き選挙戦を戦おうとするゲイリーに対して、加熱する報道。そこで彼自身が、家族が、選挙スタッフが、不倫相手が、マスコミが取った行動とは...という群像劇的な構造になっています。ゲイリーの参謀として『セッション』やサム・ライミ版『スパイダーマン』シリーズ等で圧倒的な存在感を見せた J・K・シモンズが、いつもとはちょっと違った渋めのキャラクターで登場しているのも印象的。

物語の描き方は叙事的で、様々な登場人物の動きを時系列で淡々と追っています。ゲイリーと参謀たちの思惑の違いや選挙スタッフとマスコミの駆け引きはなかなかにスリリング。ただ、ゲイリー・ハートという政治家のカリスマ性やプロパガンダの巧さは映像を通じて理解できたものの、彼がどういう信念で政治を行い何故そこまで高く支持されたのかについては登場人物の台詞の中で表現されるにすぎず、リアルタイムを知らない視点から見るとやや説得力に欠ける印象もありました。ゲイリーが何故大衆が政策とプライベートを分けて見てくれると思ったのか、もっと上手く立ち回ることはできなかったのか...が今一つ理解できず、ゲイリーに感情移入するよりも自分自身もこの事件の傍観者の一人という意識でスクリーンを見つめていました。ただ、ゲイリーが妻から突きつけられる台詞だけは、妻子ある身としては無茶苦茶痛い(;´Д`)。これ当事者として浴びせられたらたまらないだろうなあ...。

本作のテーマは「政治家は完璧に清廉潔白であるべきか」「加熱するスキャンダル報道の行く末」といったあたり。「政策よりもスキャンダルで動くこの政治は、まるでスポーツになろうとしている」というゲイリーの言葉は近年の米大統領選の状況を連想させるような部分もあるし、日本や東京の政治に重ねてもいろいろと思うところはあります。それでもスキャンダルの発端となったマイアミ・ヘラルド誌の編集長が「これが選挙の本質だ」(うろ覚え)と反論する一言は、良い悪いにかかわらず実情としては本質を言い当てているよなあ、とも思うわけです。だから何、というわけでもなく、その判断は観客それぞれに委ねられています。

面白かった...んだけど、「ヒュー・ジャックマンがカッコ良かった」以外の印象が薄い映画でもありました(ぉ。直前に観た『グリーンブック』の出来が良すぎたせいもあるのかもしれませんが。

投稿者 B : 22:27 | Foreign Movie | Movie | コメント (2) | トラックバック

2019/03/12 (Tue.)

グリーンブック

先日の北米出張時の機内では『ギフテッド』以外にも観たかった映画がいろいろ入っていたので、睡眠以外の時間はほぼ映画を観ていました。

グリーンブック

これはあの『ボヘミアン・ラプソディ』を抑えて今年度のアカデミー作品賞を獲得した作品です。個人的にはアカデミー賞よりも前に Aretha Franklin の "Think"(『ブルース・ブラザース』のダイナーのシーンで Aretha 本人が唄っていた楽曲)を使った TVCM が気になって、『ブルース・ブラザース』のファンとしてはどんなものか観ておかなくてはなるまい...と思っていたのでした。
日本では今月から上映が始まったばかりで AA の機内では日本語版が用意されていなかったので、英語音声+英語字幕にて鑑賞。

実在した黒人ピアニストの "ドクター"・ドン・シャーリーと、彼が雇ったイタリア系白人の運転手トニー・"リップ"・ヴァレロンガの二人がコンサートツアーの旅を通じて遭遇するさまざまな出来事を描いた作品です。タイトルにもなっている「グリーンブック」は、まだ黒人差別が根強く残っていた当時のアメリカ南部において、黒人が利用できる施設を記したガイドブックのこと。
黒人の中では裕福な家庭に生まれ、ホワイトハウスで演奏したりカーネギーホールの上階に住むなどピアニストとしても成功したドク・シャーリーに対して、用心棒や賭博などでその日暮らしの生活を営み、粗野な言動が目立つトニー。当時のアメリカの白人と黒人のおかれた環境からすると対象的な状況ですが、トニーは報酬がいいことを理由にドックの運転手の仕事を引き受け、8 週間にわたる南部のコンサートツアーに同行します。そこで衝突する二人の価値観や二人が遭遇するさまざまな人種差別、そういうものを経て二人の価値観と関係性がどう変わっていくか...に焦点を当てた物語。

これ、単に高潔な白人が差別を受ける黒人を救う話だったらこんなに面白くなかったはず。粗野な白人と高潔な黒人という逆転した組み合わせの二人がアメリカ南部を行く話だからこそ面白い。

  • ちょっとした万引きを当たり前のようにするトニーを強く咎めるドク
  • 手づかみで物を食べたことがないというドクに対して「ケンタッキー(州)でケンタッキー(・フライドチキン)を食べるなんて最高じゃねえか」と言いながら強引に食べさせるトニー
  • 黒人 NG なんてお構いなしに一人であっちこっち行ってはトラブルに巻き込まれるドク、それを助けに行くトニー
  • ボキャブラリーに乏しいトニーが妻に宛てた手紙を毎回添削してやるドク
  • 映画の冒頭では黒人を差別していたのに、終盤では不当な扱いを受けるドクの代わりに白人にキレるトニー
少しずつ変わっていく二人の関係性がすごく良い。おっさん二人が旅しているだけなのに、次第にこの二人に対してなぜか「かわいい」という感情が湧いてきます(笑。個人的にはちょいちょい挟み込まれ、最後のオチにも使われる手紙の添削のエピソードがすごく好き。 ベースにあるのは当時の(今も地域によっては残っているに違いない)アメリカ国内の人種差別なんですが、それをストレートに描くと重々しい作品になってしまうところ、問題提起はしつつもあまり重苦しくしない脚本が良い。特に爆笑ではなく「プッ」と笑わせてくるコメディのセンスが秀逸で、私は飛行機内にもかかわらず鑑賞中に三回くらい声が出てしまいました(笑

あとこの映画、特に音楽がいい。ドン・シャーリー自身が演奏するジャズやクラシックはもちろんのこと、劇中で使われる楽曲も 1960 年代のオールディーズやソウルが中心で、私のツボを突いてきます。Aretha Franklin の楽曲ももちろん出てきますが、残念ながら "Think" じゃなかった(´д`)。あの CM、日本の映画業界らしくけっこうミスリードを誘う作りじゃないですかね...。

さておき、主人公トニーを演じるのはなんと『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでアラゴルンを演じたヴィゴ・モーテンセン(!)。あの高潔な勇者から粗野な太ったおっさんへのギャップ。この撮影のためにわざわざ 20kg くらい増量したというからすごい。言われなければ同一人物だとはまず気付きません。私は『ロード~』以外で彼の出演作を観たことがありませんが、こんなに演技の幅がある人だったんですね...。
対するドクを演じるマハーシャラ・アリの芝居もいい。最初はお堅い感じなのに、次第に打ち解けてお茶目な一面を見せ始めるジワジワとした変化が秀逸。と思ったら、何と本作でアカデミー助演男優賞を受賞していたんですね(ヴィゴ・モーテンセンのほうは主演男優賞ノミネート止まり)。

アカデミー賞抜きにしても、いい映画でした。今年ここまで観てきた中では(ってもまだあまり観てないけど)一番良かったような。『ボヘミアン・ラプソディ』のような派手さがないのであまり話題になっている印象がありませんが、個人的にはとてもおすすめです。

投稿者 B : 22:25 | Foreign Movie | Movie | コメント (0) | トラックバック

2019/03/09 (Sat.)

gifted/ギフテッド

今回の北米出張には初めてアメリカン航空を利用したのですが、機内エンタテインメントで少し気になっていた映画がラインアップされていたので、移動中の時間潰しがてら鑑賞しました。

gifted/ギフテッド

gifted/ギフテッド

自殺した姉に託された「特別な才能」をもつ姪を独りで育てる男の物語です。"gift" には「神からの贈り物=天賦の才能」という意味もあり、つまりはそれだけ傑出した才能をもつ子をどう育てるか?という話。

ボートの修理工として働くフランクは、彼の姉譲りの天才的な数学の才能をもつ少女メアリーを姉の遺言に従って「普通の学校」に通わせようとするが、周囲の子たちとの能力の違いから校内で浮き、次第に問題を起こすようになる。それでも彼女なりの信念に基づいた行動で同級生たちと馴染み始めたところで、絶縁状態だったフランクの母=メアリーの祖母イブリンが現れ、メアリーを一流の教育機関に移そうとする。母親との衝突の末自殺を選んだ姉の気持ちを組みメアリーを普通に育てようとするフランクと母イブリンは最終的に法廷で親権を争うようになり...というのが大まかな流れです。
扱っているテーマ的には『グッド・ウィル・ハンティング』と共通するところがあるものの、『グッド〜』がトラウマに埋もれた才能を見出して彼の能力を発揮できる場所へと導く話であるのに対して、本作は才能ある子を特殊な環境に置かず「普通の感覚」を学ばせるために育てるという点で、逆方向を向いたような話になっています。まあ、人間社会で生きていくために才能よりも社会性を育てる必要のある幼少期と、ある程度人格が形成された青年期とでは導くべき方向性が異なって当然ではありますが。

映画は基本的に主人公であるフランクの視点で描かれます。だから特別な才能があっても家族の前では年相応に子どもらしいメアリーはとてもかわいいし、姉の遺言も関係なく近くで成長を見守りたくなる気持ちはわかる。一方で自分も一人の親としての視点、そして自分の親に育てられてきた経験をふまえると、自分が為し得なかったことを子や孫に投影し、その才能を最大限に伸ばしてやりたいイブリンの気持ちもまあわかる。どちらの生き方が正解かは、実際に大人になったときの本人次第でもあるわけで、難しい話です。
ただエンディングまで観た限りでは、最終的にはこの映画は育て方がどうこうというよりも、固い絆で結ばれた事実上の父娘の愛を描いた作品なのだなあ...という感想を持ちました。多くのシーンで表現されていた「メアリーの子どもらしいかわいさ」は、才能云々を離れた幸せな親子像を映像で表現したものに違いない。

我が家も長女が一年前に中学受験を経験し、来月四年生に上がる次女が塾に通い始めたこともあって、子どもの能力の伸ばし方について考えることが増えた身としてはいろいろ感じるところがありました。私は別に娘を天才数学者にするつもりはないけれど(笑)、娘たちが将来自分で生きる道を選ぶ日が来たときにできるだけの選択肢を用意しておいてやりたい。また娘たちが通う都内の小学校で実際に学級崩壊や崩壊寸前の状況に何度か遭遇したことで、今の東京で「普通の学校」に通わせることが必ずしも幼少期の幸せや健全な成長につながるとは限らない。かといって一定水準の環境を子どもに与えるためには相応のお金がかかる。この映画のような二元論ではいかない話だし、近年の私の最大の関心事は実はそれだったりします。でもそういう状況だからこそ、この映画を観てみたいと思っていたのでした。

話を映画に戻すと、この作品は本当に芝居と演出が素晴らしい。アクション映画のような派手さはないものの、クリス・エヴァンス(『キャプテン・アメリカ』)を筆頭とするベテラン俳優陣が実に深みのある芝居をしています。でもそれ以上に圧巻だったのがメアリー役のマッケンナ・グレイス。撮影当時まだ 10 歳やそこらだったにもかかわらず、学校のシーンでは自分の能力に自信をもつ大人びた小学生として演じ、フランクや愛猫フレッドと触れ合うシーンは屈託のない笑顔や仕草を見せ、フランクとの関係性が変化していくシーンでは微妙な心境を表現してみせ...本当に振り幅が広くて素晴らしい。しかも自分の子じゃないのに「この子を絶対幸せにしてやりたい」と思ってしまうかわいさ!(笑)この感情、娘を持つ親ならば共感してもらえるんじゃないでしょうか。
映像についてもメアリーがフランクやフレッド、隣人のロバータと接する何気ないカットの使い方がとても巧く、変に科白で言わせなくても彼らの関係性がしみじみ伝わってくる、いい画なんですよね。

ラストはまあ「めでたしめでたし」で丸く収めた感じの脚本だけど、翻って自分の子どもたちの幸せって何なんだろう...?と考えてしまう部分はありました。でもウチの場合は二人とも、少なくともこれまでの選択の結果については納得しつつ充実した日々を送ってくれているようだし、これで良かったと思いたい。

いい映画でした。映像作品としても余韻のあるいい画がとても多いし、定期的に見返したくなる作品だと思います。

投稿者 B : 22:27 | Foreign Movie | Movie | コメント (0) | トラックバック

2019/02/17 (Sun.)

ファースト・マン [IMAX] @109 シネマズ川崎

宇宙もの映画が好きな私としてはこれは観ておきたかった。

ファースト・マン

ファースト・マン

「ファースト・マン」...人類で初めて月まで行った男、つまりニール・アームストロングの物語です。『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリング主演で史実宇宙もの?というのにちょっと違和感を持ちましたが、それでもアームストロングの伝記の映画化となれば観たいじゃないですか。

物語はアポロ 11 号が月面に着陸する十年ほど前から始まります。冒頭はアームストロングのテストパイロット時代、超高高度へのテスト飛行の映像から始まります。この映像がまた美しく、ああここから始まる壮大な宇宙開発史とそのロマンが堪能できるのか...と思ったら、その後当分にわたってアームストロングの飛行シーンは出てきません(´д`)。その後はむしろ、難病で幼くして亡くなった愛娘に関するエピソードや打ち上げの失敗・テスト中の事故などで同僚が次々と亡くなっていく話が続き、何とも重い雰囲気に包まれます。そんなこともあってかずっとどこか孤独で、寡黙な空気を纏い続けた人。他の二人の息子に対しても、決して育児放棄しているわけではないけれどあまり多くを語らず、挙げ句の果てにアポロ 11 号の打ち上げ前夜に「これでもう会えなくなる可能性もあるっていうのに、子どもたちに何か言ったらどうなの!」とブチギレられる始末。

ニール・アームストロングというと英雄視されすぎていて、その功績からくるイメージに対してはライアン・ゴズリングってなんか違うような...という先入観を持っていましたが、こういう暗めであまり救われないエピソードをたたみ掛けられると「あー、だからライアン・ゴズリングなのか...」と妙に納得(´д`)。『ラ・ラ・ランド』でも『ブレードランナー 2049』でもライアン・ゴズリングは目的を果たすけどなんか報われない、そういう役どころでした。しかしまあ、「アームストロングの映画」に対して多くの人が抱く期待とはずいぶん違う内容で、劇場のシートに座りながらずっとモヤモヤしてしまったのも事実です。同じ宇宙開発ものなら、メインキャラが誰も自分では宇宙に行かない『ドリーム』のほうがよほどロマンがあったし、『アポロ 13』のほうが分かりやすいドラマがあった。

ただ、そういうモヤモヤがあったからこそクライマックスのアポロ 11 号の打ち上げ~月面到達シーンは感動しましたね。アームストロングがついに月面に降り立ち、あの有名な「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」の言葉を無線で伝えた瞬間には、思わず涙がこぼれました。

ファースト・マン

なお今回は川崎の 109 シネマズにて鑑賞。IMAX なら通常は T・ジョイ PRINCE 品川を利用しているわけですが、今回は初めて IMAX レーザーで鑑賞すべく、わざわざ川崎を選びました。IMAX レーザーは最近までは大阪にしか施設がなかったのが、昨年 11 月に川崎にも導入されました。4K レーザープロジェクタを使用して従来よりも高輝度・高コントラストの映像が楽しめるのが特長で、4K/HDR 時代のリファレンスになり得る設備だと思います。

レーザープロジェクタの威力は確かに絶大で、真っ暗な宇宙空間に浮かぶ地球の青の鮮やかさや大気を介さない太陽の眩しさがプロジェクタの映像とは思えない高コントラストで描かれていました。特に本作ではアームストロングが地球や月を目にする瞬間を「まずは宇宙服のバイザーへの反射で表現し、その後スクリーン全体にそのものを映す」というもったいぶったやり方で表現しているため、観る側の期待の高まり具合も含めて強烈な効果を発揮していたと言えます。
一方、撮影は IMAX 70mm フィルムを使用して(おそらく意図的に)ある程度のフィルムグレインが載り、かつ手持ち撮影されたシーンも多いことから、4K の鮮明さを感じられるシーンはあまり多くなかったのはちょっと残念。それでもあの地球の青さはわざわざ IMAX レーザーの劇場を選んだ価値はあったと思えます。

ただし、劇場そのものとしては品川の IMAX のほうがスクリーンが大きく座席の配置もいい。非レーザーでも品川のプロジェクタは十分に輝度もコントラストも高いので、全体の満足度としては依然として品川のほうが高いかな、というのが正直な感想。品川は座席の傾斜が大きいのでどの席でも視界が開けていますが、川崎は前席に背の高いお客さんがいたら頭がスクリーンに被りがちなんですよね...。シートも川崎の方が広くて快適です。
IMAX もレーザー導入劇場を限定するつもりはないでしょうし、T・ジョイも都内最大級の IMAX シアターである品川には力を入れているはずなので、品川にも早く IMAX レーザーが導入されることを期待しています。

投稿者 B : 23:01 | Foreign Movie | Movie | コメント (0) | トラックバック

2019/02/12 (Tue.)

劇場版シティーハンター @TOHO シネマズ新宿

わざわざ新宿まで観に行ってきました。

劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズ

劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズ

私は別に熱心なファンというわけではないんですが、ジャンプ黄金期世代なのでアニメはなんだかんだリアルタイム(田舎だったのでたぶん遅れネット)で観ていたし、原作もジャンプ本誌やコミックで全部読んでました。コミックはかかりつけの医院とか高校時代によく行ったお好み焼き屋とかに置いてあって読んでいたような記憶が。だから二十年ぶりにアニメ化、しかもほぼオリジナルキャストでの制作と聞いて懐かしくなり、興味を持ちました。

ストーリーはある美女から依頼を受けた冴羽獠が悪者から依頼人を護りつつ、途中にお色気シーンや香にハンマーで殴られたりなんのかんのあって悪役を倒して事件を解決する、といういつもの『シティハンター』。原作連載当時とは時代が違うため登場するツールが現代に合わせて変更されてはいるものの、大枠はフォーマットを踏襲していて観ているこちらとしても安心感があります(笑。いいシーンでは必ず旧作のテーマ曲がかかるところがものすごく郷愁を誘う。時代設定は現代なのに、空気感が完全に '80 年代後半のそれでした。

シティハンターといえば「XYZ」の伝言板。私が学生時代に上京してきた頃にはまだかろうじて伝言板は現役だったけど、携帯電話の普及に伴いどの駅からも姿を消して久しい。獠への依頼が果たしてどのような形で行われるのか...と思ったら、意外な形で伝言板のモチーフを使っていてちょっと感心してしまいました。

今回の(今回も)舞台は新宿。リアルタイムでテレビシリーズを観ていた頃には「漫画やアニメの中の世界」に過ぎなかった新宿も、東京に住んで二十年経った目で見ると「自分のよく知っている風景の中で獠や香たちが動いている」ように見え、何とも言えない気分になります。特に今作はサブタイトルに「新宿」とあえて入れていることから、特に意識的に新宿の名所を舞台にしたのでしょうが。自分が今まさに観ているこの映画館の外で事件が繰り広げられていると思うと、わざわざ新宿まで見に来た甲斐があったと思えます(笑。

劇場版ということでテレビシリーズよりもちょっとスケールが大きめの話、だけど話が特別に面白いか?と言われればそうでもないような(笑。でもフォーマットどおりに展開して様式美のようなギャグシーンがあって期待通り『Get Wild』で締めてくれる『シティハンター』が約三十年ぶり(過去の劇場版やスペシャルは観なかったので)に観られただけで満足です。いやむしろ ED の『Get Wild』のために 90 分の映画を観たと言っても過言ではないくらい(ぉ、『Get Wild』と ED の演出は色褪せないカッコ良さを持っていると思います。少年時代の自分と同窓会を開いたような感覚に陥る映画でした。

投稿者 B : 23:45 | Anime | Movie | コメント (0) | トラックバック

2019/02/09 (Sat.)

SUITS/スーツ [Prime Video]

今の仕事は海外出張を含め英語を使う機会が多いんですが、私は読み書きとリスニングはまあできるけどスピーキングが苦手。なので最近は英会話学校に通っていたりします。四十代になって習いごとを始めるとは思っていなかった(;´Д`)。
さておき、講師の中で映画やドラマが好きという先生が「ビジネス的な言い回しもよく出てくるから」と勧めてくれた海外ドラマを観始めてみました。

SUITS/スーツ

私は『24』も『ER』も『ゲーム・オブ・スローンズ』もちゃんと観たことがないくらい海外ドラマに縁がなかったんですが(でも昔のホームコメディは好き)、それでもこのタイトルくらいは聞いたことがありました。2011 年から 9 シーズンも続いているシリーズらしいですね。

型破りで傲慢な凄腕弁護士・ハーヴィーと、ひょんなことから彼の部下として働くことになった元フリーター(だけど記憶力は天才的)・マイクがバディを組んで様々な訴訟に取り組んでいく、というストーリー。まだシーズン 1 の三話目まで観ただけですが、最初はマイクがハーヴィーの事務所に採用されるくだりが荒唐無稽すぎてなんじゃこりゃ?と思ったものの、実際の訴訟を扱っていく二話目以降はなかなかに面白い。弁護士見習いのマイクがハーヴィーに放置され手探りでの証拠集めに苦労する中、いいところで登場したハーヴィーが一発逆転の策を授ける、という展開が基本のようです。基本的に一話完結で話のペースが速く、途中にコメディシーンもちょいちょい挟んでくるから飽きない。海外ドラマらしい濃い作りです。

弁護士ものというと殺人事件を扱った法廷劇のイメージが強いですが、この作品は企業系の訴訟案件がメインで、かつ法廷外の駆け引きが多い。ビジネスに関連する言い回しが多用されるし、出演者の英語も聴き取りやすい。これは確かにビジネス英語のトレーニングにうってつけのドラマかもしれません。謎解き的な要素はほぼありませんが、スピード感ある展開と最後で大逆転するケレン味に引き込まれるので、むしろ英語そっちのけで楽しんでしまっている自分がいます(笑。Prime Video ではシーズン 6 まで見放題対象になっているので、ちょっとずつ観ていこうと思います。

投稿者 B : 22:11 | Foreign Movie | Movie | コメント (0) | トラックバック

2019/01/30 (Wed.)

ペンギン・ハイウェイ [Blu-ray]

最近は映画もほとんど配信で観るようになってディスクが発売されても買うことがめっきり少なくなったんですが、これは Blu-ray で持っておきたいと思って購入しました。

ペンギン・ハイウェイ Blu-ray スタンダードエディション

ペンギン・ハイウェイ Blu-ray スタンダードエディション

去年の夏に観た映画の中では、個人的には一番ツボにはまった作品。

サイエンス・ファンタジー要素を取り入れた典型的なジュブナイルものの作品ですが、主人公が熱血漢ではなく物事を少し斜めに見る大人びたタイプの少年というあたりが現代的。でもある日突然街に現れたペンギンと「海」の謎を解くストーリーにはこのキャラクターが必要だったのでしょう。また大人びていながらも、年上のお姉さんに憧れたり、他人の気持ちや恋という感情を理解していなかったり、そういう内面が物語を通じてちゃんと成長していくさまが描かれているのも良い。私はなんとなく自分の少年期を追体験するような視点で観てしまう作品です。だからこそ思い入れが生まれるというか、人によっては「なんだこの生意気な子ども」と感じて物語に入っていけないかもしれません(笑。

前半は何気ない日常の中に出現した超常の謎を、子どもらしい視点(しかし科学的アプローチとしては正しい)で解いていこうという話。建物から文房具に至るまで細かく描き込まれた舞台装置がリアリティを添えています。一方でクライマックスは完全にファンタジーの世界、リアルを捨てて天地がひっくり返る映像に「コロリドらしい」疾走感のある演出。最終的にはペンギンとお姉さんの謎は完全に解けるわけではないけれど、余計な寄り道をせずにメインキャラ陣の成長にフォーカスしたシナリオとこの前後半のギャップの大きさがラストのカタルシスに繋がっている。また舞台は主人公アオヤマ君の街からほぼ出ないのに作品のテーマとしては宇宙にも繋がっていく構造になっているあたりが「子どもの目からみた世界」の狭さとその先の可能性を暗喩しているようにも思います。改めて考えると、映像として表現するのが難しい小説をこういう形で映像化してしまったことの凄さを感じる作品です。

実は私は夏休みに長女にこの小説を勧めて読ませていたのでした(笑。長女の性格ならこの作品は面白いと感じたに違いないので、今度の週末にでも一緒に観ようかと。

投稿者 B : 22:38 | Anime | Movie | コメント (2) | トラックバック

2019/01/18 (Fri.)

コーヒーが冷めないうちに

私は気になった映画はすぐに映画館で観ちゃう方なので飛行機に乗っても機内エンタテインメントであえて観たい映画も特にないことが多いのですが、今回はちょっと気になるけどネット配信が始まってからでいいか...と思っていた映画が JAL 国際線にラインアップされていたので、珍しく機上で鑑賞しました。

コーヒーが冷めないうちに

コーヒーが冷めないうちに 通常版 [Blu-ray]

本屋大賞にノミネートされた小説の映画化らしいですね。私はどちらかというと松重豊が出てるというので気になったクチです(ぉ。映画としては気になってはいたんだけど、「泣ける映画」という触れ込みで売り出される邦画があまり好きではなくて、なのに「4 回泣けます」とか宣伝されると逆に萎えるじゃないですか。確かに映画って日常とは違った感動を味わいたくて観るものだと思うけど、みんなそんなに泣きたいのか...。

さておき、この映画。ある喫茶店の特定の席に座ってコーヒーを飲むと、そのコーヒーが冷めきるまでの間だけ自分の行きたい時間(必ずしも過去とは限らない)に行ける、ただしコーヒーが冷める前に飲み干さなければ二度と現在には戻ってこれなくなる...というファンタジー設定の中で、登場人物がどの時間に行って誰に会い、何をするのか?を描いた作品です。二時間ものの映画だけど実際には四つのショートストーリーを組み合わせたオムニバスドラマ的な形式を取っていて、以下のエピソードが描かれます。

  • 幼なじみの男性と喧嘩別れした女性(波瑠)が喧嘩する直前に戻る話
  • 認知症で記憶を失い夫の顔さえも忘れてしまった妻(薬師丸ひろ子)の過去に会いに行く夫(松重豊)の話
  • 妹に実家の旅館を押し付けて気ままに生きる姉(吉田羊)が、急逝したその妹に再会しにいく話
  • 過去に囚われて現代に帰ってこれなくなった母(石田ゆり子)にもう一度会いに行きたい娘(有村架純)の話

「泣ける」を標榜する日本映画では往々にして主要キャラの誰かが難病にかかって死んでしまうことが多いですが、この映画はあまりそういう感じではなく(人が死ぬ話は出てくるけど)人間の望みや後悔について丁寧に描いた作風なのがなかなか良かったです。最後のエピソードは、人を過去に送ることはできても自分が過去に行くことはできない数ちゃん(有村架純)がどうやって過去に行くのか...というトリックが SF(サイエンスファンタジー)的で面白かった。

で、実際泣けたか?というと個人的にはそこまでなく感じではなく、むしろじんわり感動する系の作風だと思ったのですが、二番目の認知症の初老夫婦の話は思わずグッと来るものがありました。

コーヒーが冷めないうちに

だって松重さんのこの顔ですよ。嬉しさと悲しさ、それに深い愛情がないまぜになったこの複雑な表情。それを受ける薬師丸ひろ子の表情もいい。人の死をもって泣かせる話じゃなく、片方が病気になったときに夫婦としてどう生きていくか...を描いた話だからこそ他のエピソードよりもリアリティがあって、仮に自分もあと二十〜三十年後に同じような状況に陥ったらどうするだろうか...と考えてしまいました。

そこまで期待したわけでもなかった割にはいい映画だったかな。映像のスケールが大きいわけではないので映画館ではなく配信でも十分楽しめます。
それにしてもこういう喫茶店を題材にした映画を見ると喫茶店に行きたくなりますね。こないだ松重さん繋がりでヴィヴモン・ディモンシュに行って個店系の喫茶店の良さを実感しただけに、なおのことそう思います。特に戻りたい過去があるわけではありませんが(笑)、こういう過去に戻れそうな喫茶店を探してみようかな。


投稿者 B : 22:56 | Japanese Movie | Movie | コメント (0) | トラックバック

2018/12/27 (Thu.)

カメラを止めるな! [PS Video]

劇場公開中にリピートしたかったのが果たせずじまいだったので、配信が始まったのを見計らって PS Video で改めて鑑賞。

カメラを止めるな!

カメラを止めるな!

そろそろネタバレを恐れずに書いても良いですかね(笑

前半は完全に B 級ホラー映画をまるまる見せられて、後半にそのタネ明かしを含めた撮影風景を追体験する、という二段構成になっています。前半の劇中劇『ONE CUT OF THE DEAD』も小劇場芝居のようなノリが面白く、また本当にノーカットで収録されている凄みを感じられます。ところどころ引っかかりのある構成は、初見の時には後半のネタばらしで「あれが伏線だったのかー!」と納得しながら観るのも面白かったんですが、一度ネタが判った状態で最初から改めて観るのもまた違った面白さがあります。ちょいちょい挟み込まれる変なシーン、変なカットの裏がどうなっているかを想像しながら観ると、初見とは別の場所で笑いがこみ上げてくる。劇場で観たときに自分とは違う部分で反応していたお客さん、あれはリピーターだったのか!

この作品は SNS で話題になり、それをテレビがフォローすることでヒットした、いわゆる「バズった」映画の典型例でしたが、その契機は意外にも新聞の映画評コーナーに掲載され、初期は映画好きのシニアが単館の席を埋めたことがきっかけだったといいます(ソース:小寺信良さんと西田宗千佳さんのメルマガ)。SNS 的には「ネタバレは憚られるけど観に行った人の熱量がクチコミで伝わりやすい構造」を持つ作品ではありますが、一方で制作陣の映画愛、演劇愛が強く感じられる作風が、そういう映画好きや業界人の心を掴んだことがヒットの種火になったのではないでしょうか。そういう意味では『ラ・ラ・ランド』や『ニュー・シネマ・パラダイス』といった作品が映画好きに支持されたのと同じ根っこを持っているように思います。

とにかくイヤなことを忘れてひたすら笑えるいい映画です。私もディテールを忘れた頃にもう一度観ようと思います。

投稿者 B : 22:07 | Japanese Movie | Movie | コメント (0) | トラックバック