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シグマ山木社長が語る、同社のものづくりのフィロソフィー

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ずいぶん久しぶりに「みんぽす」のイベントに参加してきました。

今回参加してきたイベントは、近年レンズメーカーとしてだけでなくカメラメーカーとしての存在感も増してきたシグマ。私はもともとシグマのレンズを好きで(価格の割に性能が良く、またかりっとした描写も好みで)使っていましたが、ちょうど 2 年前のイベントに参加して以来、すっかり同社のファンになってしまいました。特に近年発売されているレンズはいわゆる「互換レンズメーカー」のイメージを払拭する高画質なものやマニアックなスペックを突いたものが多く、中でも私が実際に購入した超望遠ズーム 50-500OS は大のお気に入りとなっています。

そんなシグマの「今」を、ふたたび山木社長自ら語っていただきました。

SIGMA

山木社長には 2 年前のイベント以来、CP+ ではもれなくお会いできていますが、この 2 年の間に起きた震災や円高、そして創業者である山木道広氏の逝去といった困難を乗り越え、苦労されてきたんだろうなというのが窺える顔立ちになっていました。でも、一見社長とは思えない柔らかさ、腰の低さというのは変わらずで、我々にも気さくに声をかけてくださいます。

そんな山木社長のみならず、シグマの考える「写真」とは、『写真はレンズで決まる』ということ。

一眼レフには毎年のように新しい製品が発売されますが、基本的にはボディの進化は撮影領域を広げる(AF の高速化だったり高感度対応だったり連写性能の強化だったり操作性の向上だったり Wi-Fi などの付加機能だったり)ことがほとんどで、イメージャの性能で画質や解像度は確かに変わるとはいえ、描写を決めるのはあくまでレンズ。そういう意味で、『「写真」はレンズで決まる』というのは間違いないでしょう。むしろ「このレンズを使いたいからこのボディ(マウント)を選ぶ」というほうが、カメラ選びの順序としては正しいのではないかと思うほどです。実際、私も EOS や NEX を選んだのは、フランジバックやセンササイズなどの要素がオールドレンズと相性が良い、というのが大きかったですし。

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では、そのレンズの良し悪しを決めるポイントは何かというと、三つ。

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「良い設計」「良い品質管理」「良い製造」。

当たり前すぎて何を今さら言っているのか分からない、と言われるかもしれませんが、製造業において、この三つは当たり前のように最も大事で、なおかつこの三つすべてを完璧にこなすことがいかに難しいか。政治的なものや営業的なものだったり、従業員の教育だったり、部品ベンダーのクオリティだったり、そもそもの経営戦略だったり、いろんな要素に影響されるもので、おそらく製造業で「この三つすべて完璧にこなせています」と誰に対しても胸を張れる企業ってほとんどないのではないでしょうか。すべての顧客を 100% 満足させることはまずできないし、工業製品である以上不良をゼロにすることはできません。でもそれに限りなく近づける努力は当然するのが企業なので、それをどういう哲学とアプローチで実現しようとしているか、が重要なわけです。


■「良い設計」とは

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良い設計とは、「経験豊かな技術者」と「明確な商品コンセプト」のもとで商品開発が行われていること。これも製造業的には自明と言えば自明な話ですが、シグマには長年、職人芸的にレンズ設計を続けている設計者が多くいるそうです。山木社長のご幼少の頃は、シグマの会社の上に山木家の自宅があったそうで、今ではベテランとなっている設計者の方から当時は「カズちゃん」と呼ばれていたのだとか。そのくらい古くから在籍している設計者さんの技術を受け継いできたものが、今のシグマの画質に繋がっているのでしょう。コンピュータ設計全盛の今、最新のレンズを買えばどれも破綻のない描写で、普通に使う分には何の不満もない(逆に言えば、面白みに欠ける)のですが、シグマのレンズ設計はこの継続性によってそこに「シグマらしさ」を足されているのではないかと思います。

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それから「明確な商品コンセプト」。これは先日の Photokina で発表されたとおり、今後の同社のレンズは「Contemporary」「Art」「Sports」のいずれかのシリーズとして発売する、既存レンズもこの枠組みに当てはめていく形で順次リニューアルする、というものです。若干、乱暴な整理の仕方にも見えますが、少なくとも「だいたいこのくらいのスペックのレンズをこれくらいの価格で」みたいな作り方よりも、こういう枠組みを適用することで「どんなユーザーがどういうシチュエーションで何を撮るためのレンズか」ということを最初に定義して、それを商品企画や設計、製造、あるいは営業担当まで共有することでブレない商品開発ができ、顧客にもレンズを選んでもらいやすくなる、ということかと思います。
続いて、この新コンセプトに基づく 3 本の新レンズの解説がありましたが、そうとう長くなるのでその話は次回に(笑

■「良い品質管理」とは

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ニコン D800 の 3,600 万画素に代表されるように、近年はイメージセンサの高解像度がまた進んでいます。ほんの 5 年前ならば 1,200 万画素、高くても 1,400 万画素というところだったのが、最近では最低でも 1,600 万画素。2,400 万画素クラスも当たり前になりつつあって、最上位は 3,600 万画素、となれば、レンズもそのイメージャで使われることを前提にしなくてはならない。最近、各社が 24-70/F2.8 や 70-200/F2.8 のようなメインどころのレンズを相次いでリニューアルしてきているのも、そのあたりに背景があるのでしょう。が、イメージャの性能が上がり、レンズの性能が上がったのに、そのレンズを検査する MTF 測定器はレンズの性能を超えられているのか?というと、シグマが導入している検査機器は一般的な業務用機器(ベイヤー型センサ搭載)で、レンズ側の限界が見えていなかったとのこと。
そこで着目したのが同社が SD1、DP1/2 Merrill に搭載している Foveon X3 センサ。APS-C サイズで 4,600 万画素相当という解像度を持っているセンサであれば、当面はどのメーカーのボディよりも高精細なので、じゅうぶんに検査機器としての役割を果たせます。ということで、SD1 のセンサを応用してフルスクラッチで開発した MTF 測定器「A1」(「A」は会津の「A」)を用い、製品は全数検査にかけられているとのこと。

ちなみに、SD1 のセンサは APS-C サイズ、でも同社のレンズの多くはフルサイズ対応だよね?…という推論で「フルサイズ対応の Foveon X3 センサの開発がもう完了しているのではないか」ということを聞かれることがあるそうなのですが、現時点ではまだそういうことはないとのこと(笑。フルサイズ用レンズは、この APS-C サイズの Foveon X3 をセンサシフトさせながら計測することで、検査を実施しているそうです。

■「良い製造」とは

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以前のイベントのときにも書きましたが、シグマのレンズはすべて会津工場で一貫生産されています。現時点で、すべてのレンズを国内のみで製造しているのは、シグマとコシナ(長野県)の 2 社だけだそうです(他のメーカーは、国内生産と海外生産を併用、または完全に海外生産)。国内製造の利点については以前書いたとおりですが、やっぱり設計と製造が近くにいる、というのは生産効率と品質を高める上では非常に大きな意味を持つはずです。

そしてまた、現社長自身が創業者一家に生まれ育ち、会社を家族の一員として認識していることも、会津工場での一貫生産にこだわり、地元の雇用創出を目指す、という方針につながるのでしょう。同じ「雇用を守る」という言葉でも、他の企業や政治家が口にするのとは微妙にニュアンスが違う。そういう印象を受けました。まあ、上場企業でそういうアプローチが取れるかというと、株式というシステム上そう簡単ではないのも事実なのですが。

そう考えると、「良いレンズをつくること」そのものがシグマの経営方針と密接に繋がっているんだなあ、というのがよくわかります。それはいたずらに規模を追わない企業形態をとっているからできること、でもありますが。

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ここで今回のゲスト、写真家の塙真一氏が登場。実際に今回の 35mm F1.4 を試してみての感想(EF35mm F1.4L と使い比べてみてどうか、という誰もが知りたい突っ込んだ話まで!)や、レンズにまつわるよもやま話を山木社長と二人で話してくださいました。塙さんは今回初めてお会いしましたが、ユーモアがあってとても楽しい方ですね。自分自身が本当に写真やカメラが好きで、我々アマチュアカメラマンをある意味仲間だと思って接してくださっているのがよく伝わってきました。そして、人にカメラやレンズを勧めるのがとてもうまい(笑
個人的には、最近特にポートレートの撮り方を重点的に勉強中なので、ポートレートに強い塙さんのお話をいろいろ聞けたのは嬉しかったです。

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でも今回は山木社長のこの表情に尽きますよ。商品をまるで自分の子どものような視線で見つめ、嬉しそうに話す表情。商品のいち担当者が商品に深い愛を注いでいる例はいままでたくさん見てきましたが、経営トップがひとつひとつの商品にこういう顔をするのは、私はほかに見たことがありません。製品の画質がいいのはもちろんなんですが、この方の「家族」がつくったレンズだからこそ、使いたい。そう感じさせるだけのものが、この表情にはあると思います。

そして、最近のシグマには、画質や製品バランスの方向性だけでなく、企業のフィロソフィーとして、カール・ツァイス社に流れるこの哲学と通じるものを感じます。

「ずるがしこさではなく、徹底した正確さと信頼性、もういっぽうでは、商品の投げ売りではなく、安定した価格と、顧客に対する専門的アドバイスとサービス、そしていつも同じようにもうしぶんない応対」

あらゆるものがソフトウェア化され、ものの価値がクラウドやサービスに吸い込まれていく中、カメラという商品ジャンルは実直な「ものづくり」が今でも比較的通用する数少ないジャンルのひとつだと思います。長い目で見れば、カメラも平準化する価値観に飲み込まれていく時代が来るのかもしれませんが、少なくとも最後まで「光学というアナログ技術」は残る。国内に産業を残すことにこだわり、技術力と品質で勝負するシグマという会社を、ひとりの日本人として今後も応援したいと思います。

というわけで、レンズの話は明日に続きます。

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コメント

  1. b's mono-log より:

    シグマ山木社長が語る、新コンセプトレンズ群に込めた想い

    17184-2969-291371 昨日に続いて、シグマの新コンセプトレンズのイベントレポートをお届けします。 山木社長は「製品には明確なコンセプトを設定…

  2. b's mono-log より:

    SIGMA 35mm F1.4 DG HSM:これはちょっとすごいレンズかもしれない

    17184-2969-291403 [ Canon EOS 5D Mark III / SIGMA 35mm F1.4 DG HSM ] F2、1/80 …

  3. b's mono-log より:

    You can (not) advance.

    13920-2969-291454 [ Sony α99 / SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM ] 70mm、F2…

  4. b's mono-log より:

    SIGMA 35mm F1.4 DG HSM:買わずにはいられなかったレンズ

    買いました。 シグマ / 35mm F1.4 DG HSM (キヤノン用) 昨日発売されたシグマ 35mm F1.4 DG HSM のキヤノンマウント用。…

  5. b's mono-log より:

    SIGMA 35mm F1.4 DG HSM で撮るポートレート

    17184-2969-291571 [ Canon EOS 5D Mark III / SIGMA 35mm F1.4 DG HSM ] F2、1/50 …

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